第3話 オールイン
ディアボロスの前に並べられたカードと、俺の手札。
静寂が支配するカジノの一角で、次の一手が俺に委ねられた。
コールするか、レイズするか――その決断の瞬間に、レイが静かに立ち上がる。
「私を賭けて」
場の空気が凍りつく。喧噪に満ちていた異界のカジノが、一瞬にして静まり返った。張り詰めた静寂の中、店中の視線がレイに集中する。
ディアボロスが目を見開いた。
「ほう……? それは面白い。」
爪を鳴らしながら、愉快そうに微笑む。今までにない展開に、ディアボロスの瞳が妖しく光る。その瞳が、わずかに愉悦に揺れる。
「お前、それがどういう意味か分かっているのか?」
「ええ。」レイは静かに微笑む。「私は、あんたを信じる。」
俺は息を呑む。だが、レイの眼は迷いなく、揺るぎなかった。
「フフ……いいだろう!」
ディアボロスが笑う。異界の住人たちがざわめき、テーブルに詰め寄る。
「では、最後の勝負といこうじゃないか。」
「オールインだ。」
ゆっくりと、運命のカードがめくられた。
ディアボロス――フォーカード。
俺――ロイヤルストレートフラッシュ。
――俺の勝ちだった。
ディアボロスの笑みが消え、目が鋭く細められる。疑念の目で俺を見つめる。口を開きかけるが、言葉を飲み込む。悔しげに爪を鳴らし、低く舌打ちした。
「まさか……あの女に視線が集まった隙に、カードをすり替えたのか!?」
俺は肩をすくめ、とぼけた声で応じた。
「何を言ってるんだ?証拠はあるのか?それより、最初から俺が負ける予定だったみたいな言い方じゃないか?そっちこそイカサマでもしていたんじゃないのか?」
「ほぉ……いいだろう。」
ディアボロスは肩をすくめ、しかし冷たい声で続けた。
「だが次は無い。もう二度とお前から目を離すことはない。」
俺は鼻で笑った。
「次か……。そういや聞いたことがあるぜ。愛ってやつは、金じゃ買えないらしいな。」
「何を言って――」
その瞬間、店中のチップが宙を舞い、渦を巻くように俺のもとへと吸い寄せられた。賭けられたチップが場を支配していたこの空間は、重力を失ったように、場が歪み、崩れ始める。
カジノの床が軋み、壁が歪む。天井のシャンデリアが揺れ、煌びやかな光が乱反射する。異界の住人たちはパニックに陥り、悲鳴と怒号が入り混じる中で蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「貴様……貴様、一体何をしたッ!?」
ディアボロスは必死にチップを掴もうとするが、その指先からすり抜けるように消えていく。目を剥き、狂気じみた表情で叫んだ。
ディアボロスの目は血走り、怒りと混乱が入り混じる。足元が崩れ落ちるのを感じながら、それでも俺を睨みつけた。
「この私から……すべてを奪ったつもりか……!? 佐藤ォォォ!!!」
俺はそんなディアボロスを見て、ただ肩をすくめる。
「悪いな、勝った奴が正義なんだ。」
「フザけるなァァッ!!!」
ディアボロスの咆哮がカジノ中に響くが、その声も次第に崩れゆく空間に吸い込まれていく。
「さあ、行くぞ!」
俺はレイの手を取り、崩れゆくカジノの出口へと駆け出す。背後で柱が崩れ落ち、赤と黒のタイルが剥がれ落ちていく。二人は最後の一歩で飛び出した。
次の瞬間、カジノは崩れ落ち、暗闇に溶けるように消え去った。
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