冷酷王太子に溺愛されました
目が覚めた瞬間、私は自分の異変に気づいた。
天蓋付きの豪華なベッド、磨き抜かれた大理石の床、そして繊細な刺繍の施されたカーテン――どう見ても、これは私の部屋ではない。
「お嬢様、もう朝ですよ」
突然、部屋の扉が開き、メイド服を着た少女が入ってきた。
「え?」
「今日は大切な日ですわ。王太子殿下との婚約の儀がございます」
王太子? 婚約!?
おかしい。だって私は、昨日までただの普通の女子高生だった。階段を踏み外して気を失った記憶はあるけど、まさか目覚めたら異世界に転生しているなんて――。
「お嬢様? どうされました?」
「……ここはどこ?」
「なにをおっしゃいますの? エレノア様は、アーデルハイト公爵家のご令嬢。王太子殿下の婚約者におなりになられるのですよ」
私はこの世界では、エレノア・フォン・アーデルハイトという名の公爵令嬢らしい。そして、今日、この国の王太子と正式に婚約することになっている。
***
そして迎えた婚約の儀。
「エレノア・フォン・アーデルハイトです。王太子殿下、お初にお目にかかります」
心臓がバクバクするなか、優雅に礼をすると、目の前の王太子が私をじっと見つめた。
――え、なにこの人……圧がすごいんだけど!?
王太子、レオンハルト・フォン・ルクセンベルク。銀髪に鋭い金色の瞳を持ち、完璧に整った顔立ち。だが、なによりも印象的なのは、彼がまとっている冷たい空気だった。
彼は冷酷な王太子として有名で、政治の場では容赦のない判断を下し、誰にも心を開かないことで知られている――ということを、私はメイドから聞かされていた。
「……お前が、俺の婚約者か」
低く響く声に、一瞬息が止まる。
「は、はい」
「……ふん」
レオンハルトは興味なさそうに目を細めると、婚約の儀は淡々と進められた。私はこのまま王宮に滞在し、王太子妃としての教養を身につけるらしい。
***
それから数日間、私は王宮での生活を送ったが、王太子殿下との会話はほぼゼロだった。
「もしかして……めちゃくちゃ嫌われてる?」
いや、そもそも最初から関心がないのかもしれない。
そう思っていたのに――。
***
「お前、なぜあの貴族と話していた?」
ある日の夜会。私はたまたま声をかけてきた貴族の青年と少し話していただけなのに、背後から冷たい声が響いた。
「えっ?」
振り返ると、そこにはレオンハルトが立っていた。彼の瞳が、まるで怒っているように光っている。
「俺の婚約者が、軽々しく他の男と話すな」
「え、でも普通に社交の場では――」
「関係ない」
突然、彼は私の腕を引き寄せた。
「お前は俺のものだ」
「えっ……」
「お前が誰と話し、誰を見ているのか、すべて俺が把握しておく」
顔が熱くなる。いや、今まで冷たかったのに、急にこんな独占欲丸出しで来る!?
「……殿下、今さらそんなことを言うなんて、ずるいです」
そう言うと、レオンハルトは少しだけ目を見開いたあと、ふっと笑った。
「今さらじゃない。最初から決めていた」
「え?」
「俺は、お前を手放すつもりはない」
その夜から、冷酷だったはずの王太子が、私にだけ甘くなるのだった――。
【短編集】ふとした瞬間、恋に落ちた。 ミナ @mitsu0914nn
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