【短編集】ふとした瞬間、恋に落ちた。

ミナ

放課後、君と図書室で。

放課後の図書室は静かで、窓から差し込む夕日が本棚を黄金色に染めていた。私は一番奥の席に座り、数学の問題集を開いていたが、ページは一向に進まなかった。


 理由は簡単だ。向かいの席に座る彼――瀬戸悠人(せと ゆうと)が、同じように勉強しているから。


 「それ、解けた?」

 不意に彼が声をかけてきた。私は驚いて顔を上げると、悠人は私の開いているページを指さしていた。


 「えっと、ちょっと詰まってて……」

 「見せてみ?」


 そう言って、彼はノートを回しながら私の隣に座った。距離が近い。シャーペンを走らせながら説明してくれる横顔を、こっそり見つめる。


 「……なるほど!」

 「でしょ?」

 悠人は得意げに微笑む。


 ――好きだ。


 この気持ちはずっと前から分かっていた。でも、伝えるつもりはなかった。だって、私と悠人はただの「勉強仲間」。告白して、この関係が崩れるのが怖かったから。


 「お前、最近ちょっと変じゃね?」

 「えっ?」

 「前はもっと俺に質問してたのに、最近はぼーっとしてることが多い」

 「そ、そんなことないよ!」


 慌てて否定する私をじっと見つめた後、悠人はふっと笑った。


 「じゃあ、俺から質問していい?」

 「え?」

 「お前、俺のこと好き?」


 心臓が跳ね上がる。


 「え、えっと……」


 「俺は、お前が好きなんだけど」


 静まり返った図書室。夕日が彼の横顔をやさしく照らしている。冗談のような言い方だったけど、彼の耳がうっすら赤く染まっているのを見て、これは本気の告白なんだと分かった。


 「……ずるい」

 「なにが?」

 「先に言うなんて」


 私は顔を隠しながら、小さく「私も好き」と呟いた。


 悠人は笑いながら、「じゃあ、明日からは“勉強仲間”じゃなくて、“彼氏彼女”ってことで」とさらりと言う。


 放課後の図書室に、静かな恋の始まりが響いた

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