セルフ・レッテル
H川
1話完結
人の価値観は尊重されるべきものである。
相手の価値観は否定せず受け入れよう。
大変耳触りの良い言葉で誰も反論しない。
気持ちいいから反論する必要がないのだ。
この方針に関しては、小学生の頃からの擦り込み教育は徹底されていた。
グローバル化が進み、移民が国民の60%超えてくると日本人の常識や価値観が一般的なものではなくなり、場面によっては少数派になってきたのである。
そのような環境で、月日が経つにつれて日常生活では小さなトラブルが増加してきた。
例えば、電車で席を譲る行為一つ取っても、『優しさ、思いやり』と感謝する者もあれば、『弱者と見なされることが恥辱』と感じる者もいる。
どちらの言い分もわかるためトラブルの仲裁は非常に困難だった。
そうした課題に対して、学生ベンチャーが開発したのが、『その人の価値観を可視化することで、トラブルを防ぐのと同時にコミュニケーションコストが軽減されるシステム』であった。
これは画期的であった。
従来はある程度の時間をかけて、対象者と付き合い、向き合うことでしか理解できなかったその人の価値観が、「はじめまして」のタイミングでカテゴライズできるのである。
具体的には価値観を極小のICチップに記録し、デバイスとしてのコンタクトレンズで読むことができる仕組みだ。
人々は何かしらの価値観を必ず持っており、政府により分類化されて統計的に管理された。
個々人の価値観は、マイナンバーカードのような普及率の問題ではなく、右手首の突起の部分にICチップとして埋め込まれることになった。
もちろんプライバシーの問題や、思想の自由、偏見を生じさせ逆に人権侵害であると反対する者もいたが、犯罪予備軍への事前対応、ICチップ減税、人間関係のストレスの軽減等のメリットの方が、わかりやすく国民の大半が同意した。
特に、古来から人々を悩ませてきた「孤独感」に対して非常に高い効果があり、容易につながっている感覚に浸ることができたのであった。
また、日本国籍がないものは入国審査の際に検査を受け、滞在中はICチップ付リストバンドを右手首にはめることが法律で制定された。
この施策により、政府が懸念していた価値観の違いによるトラブルは減少し、人々は相互理解のハードルが下がったことを歓迎した。
そして、価値観の違いによるトラブルは避けられ、以前に比べて圧倒的にコミュニケーションが取りやすくなった。
一方で、似たような価値観の者達が集まる結果となり、その集団に合わない者は異端とみなされた。
多様性はもはや死語となりつつある。
人類はこれからどちらの方向に舵を切るだろうか。
未来が楽しみだと、学生ベンチャー社長は呟いた。
おしまい。
セルフ・レッテル H川 @hkawa
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