手紙を書いたら泣かれるなんて

 ある時期に、立て続けに作業所の職員のひとや同じ利用者のひとに手紙を書いて、渡したところ。

「びっくりしたよ。ちょっと顔だしたら、○○さん(相手)が泣いてんだから」

と、ほかの職員に後に言われたことがある。

 確かに気持ちは込めたが、まさか、泣かれるなんて思っていなかった。


 その当時、私が通所していた作業所では、利用者同士での問題があった。

 ある一人が、

「わたしをかまって!」

と、一人だけだった職員を占領していた。小さな部屋の、一人だけの女性職員。しかもその人は、とても周り(利用者)から慕われているひとで。

 そうなると、紛争じみたものが起きる。

 そこで職員は「どちらの味方なのか」といった事柄にもなり、本人はそれらに辟易していた。

 どんな言葉を書いたのか、具体的にはあまり覚えていないのだが。たぶん。


「あなたがいてくれるおかげで、みんなが居る」


のような表現だった……だろうか?

 感謝、労い、あとは、「大好きです」

そんな気持ちだったと、思う。

 それは、ちょっとしたきっかけの一つ。


 そのひととは別に。ほかにも泣かれたひとがいる。私と同じほどの年齢の子供がいると言う。

 あまり、深くは言えない過去を持つ女性。

 書いたことは、私からすれば「ありきたり」でも、そのひとにすれば、心にくるものがあったそう。

 そのひとも当時、子供のこと、自身の過去のことなどで、疲れが見えていた。

 だから、手紙を書いた。

「あなたは、よく頑張っている」

 

 手紙を喜びながら受け取り、喜びのままその場で読みだしたと思っていたら。

 ぶわっと、眼から大粒の涙が落ちた。

 書いた手紙を、その場で読まれ、その場で泣かれたことは、はたして珍しいことなのか、そうでもないのか。

 これも、きっかけの一つ。


 たぶん、そうした「きっかけ」が無数にあり、「いま」の形の私がいるのだろう。

 それも、出逢いだった。

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ヤングケアラーで精神障害者の想い出返し 月凪あゆむ @tukinagi

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