第25話
会議室のモニターは戦争映画の様相だった。
炎上する機体、銃声、爆発音、兵士の絶叫。
ネモヤのPCカメラを通して見えるのはまさしく戦場の光景だった。
「ネモヤ!
何が起きてるんです!?」
魔王が問うと、不安定に揺れていたカメラが定まっていく。
初め苦しんでいたネモヤは、結局PCを落とす事もなく具合を整えていた。
「何が起きてるだと…?
そっちは何ともねえのか!?」
「会議室は夫以外変化ありません。
ズヨカオが何か仕掛けたようですが…」
「なるほどな、筋は通る」
何事か察したネモヤは近くの装甲車の陰に入った。
さすがの魔候も背中から撃たれたくはない。
「原理は不明だが魔力を使った精神攻撃だ。
頭にガンガン響きやがる。
基地もここから見える範囲だと…やっぱりだ、オレらの兵が暴れてるぜ!
女は戸惑って逃げ隠れしてるが、男は正気を失ってる!
男だけに効く魔技ってとこか!
発生源はお前らの足元、地下だ!
さっきまで何の反応も無かった場所にどデカいエネルギーがある!」
「また地下ですか…どいつもこいつも」
「…けっ、クヴォジとの共通項がまだありやがった。
この魔技の波長、魔界各地のアンテナからも発振されてる。
よその領地にも勝手に置いてやがる!
どうやら今のところ暴徒化してるのはオレら近辺だけのようだが、男が洗脳されてる事には変わらねえ」
「わかりました。
こちらでも対処を試みます。
ズヨカオ。
解除しないところを見るに、殺される覚悟があるようですね」
ズヨカオはすでに絶体絶命だ。
ムバジャーの黒剣が喉元にあり、モムビマの合金扇が頭上で構えられている。
しかし表情は微笑みであり、厚化粧の揺らぎはほぼ無い。
「解除?
何を馬鹿な…気でも狂ったか?
いやいや、名誉クソオスにとっては狂気こそ正気だったな。
せっかく魔界があるべき姿になったというのに、元の地獄へ戻せだなどと…。
あいにくワタシにももう停められん。
わかるか?
お前達にはこの現実を受け入れる他無いという事だ。
早く価値観のアップデートを済ませるといい」
「そうですか。
先に処刑を済ませてしまいましょう。
ムバジャーどうぞ」
魔王があっさり言うと、表情筋が化粧をいくらか散らした。
「待て待て待て!!
何が起きてるのか知り…ギャッ!!
待て…待て!!
ワタシを殺せば解決の糸口を失うかも知れないだろ!!」
話の途中でテーブルに顔面を叩きつけられ、ズヨカオの余裕は霧散した。
自分を殺す決断がまさかここまで簡単に下されるとは想定外だった。
これはクソオスや名誉クソオスの処刑とは訳が違う。
ズヨカオは女性であり、女性が尊重されぬ世界などあってはならないのだ。
ムバジャーが黒剣を構える。
その時。
男たちが会議室へ入ってきた。
金棒を手に、あるいは抜刀し、全員が全身から殺意を漲らせて。
そして女たちの誰かが声をかけるより早く、戦に昂った雄叫びが響く。
「ウオオオオオオオオッ!!」
「遅いぞ、呪われしYども」
ズヨカオの呟きとほぼ同時、ムバジャーに金棒が振り下ろされた。
「こりゃヤベえな」
会議室の様子を見たネモヤはPCを閉じ、白スーツの懐から拳銃を取り出す。
拳銃弾を魔力で強化可能な最新型だ。
装甲車の陰から躍り出て撃つと、涎を垂らしてアサルトライフルを撃ちまくる兵士の頭部が首からもぎ取れた。
「ネモヤだ!
オレが許可する!
正気の者は応戦しろ!」
ネモヤの叫びを聞いた女性兵士たちは、苦渋しつつ安全装置を解除した。
三代目魔王の少子化対策 不労りング @hatarakan
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