第2話

「とみちゃーん!ようこそー私達の家にー!」

 志垣が気の抜けるような声で上総を歓迎した。

 上総は私達の家という言葉に多少は引っ掛かったものの、特に言及することはなかった。

「ういー、とりあえず座りなー。」

「ほらほら富子、遠慮せずに私の隣に来いよ。」

 仙石がソファに横になり、大槻が上総の座る席を指定する。

 逆に言及出来なかったと言った方が正しいだろうか。

「あ、はぃぃ………」

 上総は縮こまるように丸くなると、大槻が上総の首に腕を回してきた。

「なぁにビビってンだよ!」

「っ!ごめんなさい……」

 大槻はフォローするように声をかけるが、上総は更に縮こまり、周囲は微妙な間が出来た。

「これじゃいつまで立っても進まねぇから、勝手に進めるぞ。いいか?」

 仙石が寝そべりながら上総に提案する。

「あ、はい。」

「そんじゃまずは富子にヤってほしいことなんだけど、ブレーンって言ってもそこまで難しいことじゃねぇ。害獣が出てきたらあたしらに教えてほしいんだ。」

「……それって私じゃなくても…………」

「まぁ……」

「そんなの建前!友達になろ!」

 仙石が誤魔化そうとするが、志垣が嬉しそうに声をあげた。

「すまねぇな、あたしらを見て逃げたり悲鳴を上げる奴はいたんだが、自己紹介してくれたやつは富子が初めてだからさ、舞が気に入ったのさ。」

「……ま、そんなわけで、仲間になってもらおうってわけ。別に命賭けろとかじゃないから、そこは安心してくれよ。見てくれはこんなでも、守護者の力を全うに使うって決めてるからよ、そこは安心してほしい。」

「………分かりました、私でよければ是非。」 

 彼女達に助けられた上総は、彼女達を信じてみようと思った。それとは別に、今の自分から少しでも変われるならという淡い期待も含まれていた。


「それじゃ、記念にこれをあげる。」

 志垣が上総の隣に座り、ポケットから何かを取り出す。

「これは……?」

「電子タバコ。」

「えぇ!?」

 上総は開いた口が塞がらないまま、手元の電子タバコを見つめる。

「大丈夫大丈夫、ベイプっていう水蒸気を吸うやつだから、未成年でも吸えるぜ。」

 大槻の言葉に上総は混乱しながらも落ち着いた。

「そ、そうなんですね。それじゃあ皆さんからしたタバコの匂いは?」

「ん?あれは紙だよ。」

「ほれ。」

 大槻がセブンスターの箱を取り出し、上下に振る。

「…………じゃあ皆さんはなんでタバコを吸ってるんですか?」

「あぁ、確かに気になるか。」

「うちらが守護者になるにはタバコ吸わねぇといけねぇのさ。」

「えぇ…?じゃあ守護者になるためにタバコを?」

「違うよ?タバコ吸ってたら守護者になっちゃったんだよねぇ。」

 志垣の言葉に上総は?が浮かんだ。

「これは裏事情みたいなやつなんだけどよ、守護者になるためには珍妙な生き物が気に入ったやつに力を与える感じなのさ。それによって守護者と一緒に行動したり力を与えて消えたりってあるんだと。」

「……じゃあ皆さんは気に入られて、力を受け取ったことでその生き物は消えてしまったんですね。」

「んーんー違うよー。」

「あぁ、あたしらに力渡したやつはそのまま残ったから、初めて守護者になった時に三人でそいつボコって殺した。」

「!?!?!?」

 仙石のからかうような笑顔と言葉に上総は脳の処理が追い付かなかったのか、瞬きが止まらなかった。

「だってしょーがねぇだろ。未成年でタバコ吸ってるあたいら見て、力与えてきたと思ったらキショイ声で興奮しながらあたしの胸触ってきたんだぜ?

 そりゃボコるだろ。」

「そそ、私もそれ見てイライラしちゃってさ。でも守護者になってたから加減出来なくてそいつはポックリいっちゃったってわけ。」

「そ、そうなんですね………」

「まぁそれもあって罪滅ぼしみたいなもんさ。タバコ吸ったら必ず変身しちまうのはどうにかしたいところだが。」

「目立つし服も派手だから、特服着て誤魔化さねぇといけねぇのはあれだが、ここいらの奴らは全員解散させられたってのはメリットかね。」

 確かに、三年程前から深夜のバイクの音等が消えたと上総は感じていた。

「えっと……三人はどうしてタバコを?」

 上総にとって一番の疑問。

 未成年の三人がどうやってタバコを手に入れたのか。

「んー、あたいらが中坊の時にさ、抜け出して駄弁ってたところに自分探しの旅をしてるっていう人がいてさ、その人から一本貰ったのが最初だな。」

「懐かしー、あの人元気かなぁ?」

「知らね。」

「そ、その人が諸悪の根源………年齢とかは?」

「んー、その時は19って……」

「やめましょうか、この話……………」

 碌な話にならないと感じた上総は、会話を中断した。

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