第1話

 昨日の絶叫の後すぐに、三人がいなくなってしまったことをぼんやりと思い出しつつ、上総の六時限目の授業の終了のチャイムがなった。

「気をつけ、礼。」

「「「「「ありがとうございました。」」」」」

 号令が終わると段々と教室には会話の花が咲く。それに混ざらず、上総は黙々と荷物を鞄入れて教室を出た。

 我ながらつまらない奴だと思いつつ、上総は黙々と廊下を歩いていった。



 下駄箱から靴を取り出し、校庭を横目に校門から出る、その時だった。

 

ブロォン…ブロォォォォン!


 という耳をつんざく音と共に颯爽と現れたのは昨日の三人だった。


「お、丁度いたぞ!」

「うわぁ、ラッキー!」

「クソ、あわよくば山義乗っ取ってやろうと思ったのによ。」


 大槻は仙石の操るサイドカー付きのバイクに乗り込み、悔しそうに拳を握った。

「おいおい、私の愛しのハーレーに傷付けんなよ?」

 仙石はやれやれと言った様子で首を振った。

「ほらぁ、ボッとしないでとみちゃんおいでおいで。私自慢の二ダボにニケツさせてあげるよん。」

 志垣が笑顔で手招きをするが、上総は目をキョロキョロと移動させ、内心汗ダラダラであった。


 なぜなら周囲では、

「え?あれって海野辺高校?」

「マジ?有名な不良校じゃん。」


「なんでここに?」

「あの話し掛けられてるの知り合いなの?」


「うわ、いかつ。」

「以外と可愛いんじゃね?お前声掛けろよ。」

「いやいや、即死だろあんなん。」


 等々、ヒソヒソ声が上総の耳に届いていた。


 上総がどうするべきかとまごついていると、頬を膨らませた志垣が動いた。

「もぉ、遠慮しなくて良いのに!」

 志垣はバイクから降りると、上総を担ぎ上げバイクに乗せた。

「え?」

 突然の出来事に目を見開き抵抗しようとするも、志垣の力が意外にも強く、上総は抵抗が無意味だと悟った。

「はぁーい、行くよー。とみちゃんは私の身体掴んでないと落ちるから気を付けてー。」

「は?はい!?」

 上総の驚きの声を肯定と捉えたのか、志垣はアクセルを踏み込んだ。








「着ーいた!」

 そこは落書きまみれの廃墟のような場所だった。

「うっと、あ?富子大丈夫か?」

 大槻がサイドカーから飛び降りた後に、上総の心配をした。上総の名誉のために割愛するが、地面に手を付き口を抑えながら肩で呼吸をしていた。

「舞、ちょっと飛ばしすぎたんじゃないか?」

 仙石が親指で上総を指す。

「んー、まぁ走りの快感は一日ではならずってね。」

「そ、それを言うなら…一日にしてならず………」

 上総は訂正を口にしたが、今の上総の声量では志垣の耳には入らず、そのままバイクを押して廃墟の中に入っていった。

「それにしても、悪かったな、突然連れてきちまってよ。あんた、真面目そうだったから授業終わるぐらいに来たんだがビンゴだったな。」

 バイクを押す仙石に反応しつつ、大槻がしゃがんで上総と会話を始めた。

「えぇ、まぁ……どうして私を?」

 一番聞きたかったことを、息を整えつつ尋ねる。

「んー、最初はほっとこうってなったんだけどよ、舞のやつが正体がバレたなら仕方ないって言ってよ。」

「そ…それって私を……?」

 怯えたような上総を見て、大槻が首を振った。

「いんや、折角なら一緒に活動しないか提案をしようと思ってな。」

「活動?」

「昨日見ただろ?私らが守護者になって戦うの。」

「え……あ……やっぱり守護者だったんですね。」

「あぁ、そこで私らが有名になるためにも、頭の言いブレーンってやつが欲しくてよ。丁度良いと思って。」

「きょ、拒否権は……?」

「まーまー、いっぺん聞いてからでも良いだろ!」

「あ、はいぃ………」

 大槻が上総に肩を貸し、よろよろとした足取りで上総は廃墟の中に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る