孤島

猫犬様

第1話

2020/04/25 島ライフスタート

最近、執筆活動に余裕も出てきて、社会のしがらみから解放されたいから、州獄島に引っ越してきた。そこで、島での出来事を綴ってゆきたい。


1日目はこの島の紹介を書こうと思う。私が引っ越した州獄島は人口千人程度の小さな島で、東京の港から80キロほど離れている。そのため、現代とは思えないほど自然も豊かで、住民同士の関わりが密接である。9割以上の住民がこの島の生まれで、私のような島の外の出身のものはほとんどいない。


昼頃に船から降り、港周辺を散策していると、島の子供たちと出会った。彼らは物珍しい目で私を見ながら話しかけてきた。

「観光しに来たのー?」

私は彼らに、以前は東京に住んでいたこと、この島に移住すること、私の仕事のこと

を伝えた。すると、子どもたちは嬉しそうに、東京での出来事を聞いてきた。電車のことや、渋谷の交差点のこと、どんなお店があって、どれだけ大きい建物があるのか。あの時の彼らの目はとても輝いていた。私は、彼らの気持ちが十分理解できた。彼らは東京に憧れているのだ。私自身、九州の片田舎出身で、夢を見て上京してきた身なので、上京した先輩の話を聞くときは、子どもたちと同じ目をしていたに違いない。しかし、一人だけ、他の子と違い、冷めた目で私を見る子がいた。まあ、人見知りなのだろう。そう思った私は、子どもたちと別れ、購入した一軒家へ歩いて行った。


玄関のカギは事前に貰ったので、鍵を開け、引き戸を引く。少し立て付けが悪く、スムーズに扉が動かない。築40年の古い家で、管理もされていない空き家だと聞いているので、しょうがないか、と思い中に入る。家の中は比較的綺麗で、イグサの香りがした。少し古いが綺麗な畳だ。畳に横になり、少し昼寝をした。夕方になり、私は近所の家に挨拶へ出かけた。田舎は横の繋がりが密接なので、すぐに噂が広がってしまう。良いご近所付き合いを続ける為にも、最初の印象が肝心だ。挨拶をした家には手土産を渡した。彼らは意外にもフレンドリーで、私に野菜や果物を渡してくれた。私の住んでいた田舎は、外部の人間を敵対視する住民ばかりだったので意外だった。これならば、すぐに島に馴染めそうだと感じた。


家に帰ると、玄関の前に、昼に出会った人見知りの子が立っていた。彼は私を見ると、そそくさと走り去っていった。流石田舎だ。私の住所などすぐに知られている。これはしょうがないことだ。しかし、この子はなぜ私の家に来たのだろう。何か話したい事が有ったのではないか。そう思いながらも、深追いすることもないと思い、私は家に入った。その時、一瞬であるが妙な胸騒ぎがしたのだ。オカルトが好きな私は、もしかしてあの子は幽霊なのかも、といったつまらないことを考えた。まあ、実際、疲れただけだろう。引っ越し作業が大変だったし、新しい環境に飛び込むことは神経を疲弊させる。私は、玄関に積み上げられた段ボールを部屋に運び、荷物を整理した。なかなか終わらずに夜になってしまった。夕食を食べ、風呂に入り、今、この日記を書いている。明日も1日、荷解きを頑張ろうと思う。そして、人見知りの子とも打ち解けられたら嬉しい。この辺で今日の日記はおしまいにしよう。

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孤島 猫犬様 @nekoinusama

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