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恋するエレオノーラ嬢は運命に従う

第1章: 灰色の学園、銀の魔女

第1話


薄墨色の空が、アウロン王国王立学園を覆っている。季節は秋。中庭の木々は、赤や黄に色づき始めているが、全体としては、どこか沈んだ、灰色の印象を与える朝だった。


エレオノーラ・フォン・ヴァイカルトは、学園の正門をくぐり、校舎へと続く石畳の道をゆっくりと歩いていた。彼女の長く豊かな銀髪は、朝の微かな光を受けて、白銀のように輝いている。その髪の色は、彼女が「銀の魔女」と呼ばれる所以の一つだった。


もう一つは、その瞳の色。左目は燃えるような深紅、右目は全てを吸い込むような漆黒。左右で異なる色を持つ瞳は、オッドアイと呼ばれ、一部の者からは「魔女の証」と囁かれていた。


エレオノーラは、黒を基調とした学園指定の制服を、身体のラインが目立たないよう、ゆったりと着こなしている。襟元には、ヴァイカルト家に代々伝わる、小さな銀のペンダントが下がっていた。ペンダントの中央には、淡い光を放つ、緑色の石が埋め込まれている。それは、「迷いの森」で採れる、特殊な触媒だった。


「おはよう、エレオノーラ」


背後から、聞き慣れた声がした。振り返ると、幼馴染のユリウス・フォン・アルニムが、穏やかな笑みを浮かべて立っている。彼の金髪は、エレオノーラの銀髪とは対照的に、太陽の光を浴びて黄金色に輝いていた。


「おはよう、ユリウス」


エレオノーラは、小さく微笑み返した。ユリウスは、エレオノーラにとって、数少ない、心を許せる存在だった。幼い頃から一緒に過ごしてきた彼は、エレオノーラの特異な外見や、ヴァイカルト家の背負う運命を、恐れることも、蔑むこともなかった。


「今日も早いんだね。学園祭の準備?」


ユリウスが、エレオノーラの隣に並び、歩調を合わせる。


「ええ。少し、調べたいことがあって」


エレオノーラは、言葉少なに答えた。彼女の視線は、どこか遠くを見つめている。


「…また、『迷いの森』のこと?」


ユリウスが、心配そうに尋ねる。エレオノーラは、小さく息を吐き、俯いた。


「…ええ。少し、気になることがあって…」


「無理はしないでね。何かあったら、いつでも僕を頼って」


ユリウスの優しい言葉に、エレオノーラの心は少しだけ軽くなった。


「ユリウス君、おっはよー!」


突然、明るい声が響き、二人の間に、小柄な少女が飛び込んできた。リディア・シュタイン。エレオノーラとユリウスのクラスメイトであり、学園祭実行委員のメンバーでもある。彼女の茶色のロングヘアは、大きなリボンで結ばれ、可愛らしい印象を与える。


「おはよう、リディア」


ユリウスは、リディアに笑顔を向けた。しかし、リディアの視線は、すぐにエレオノーラへと移る。リディアは、ユリウスの腕に触れようとしながら、牽制するように言った。


「…エレオノーラさん、おはようございます」


リディアの声は、先ほどとは打って変わって、どこかぎこちない。ユリウスと親しげに話していたエレオノーラに、苛立ちを覚えているようだ。


「ええ、おはよう」


エレオノーラは、そっけなく答えた。リディアは、ユリウスとエレオノーラの間に割って入ると、強引にユリウスに話しかけた。


「ねえ、ユリウス君、今日の放課後、学園祭のことで相談があるんだけど…」


ユリウスは少し困ったようにエレオノーラを見たが、彼女は小さく頷いた。


「ああ、もちろん。放課後、いつもの場所で」


ユリウスは、快く承諾した。エレオノーラは、二人の会話を黙って聞いている。しかし、二人がエレオノーラにはわからない、幼い頃の思い出話を始めると、疎外感を感じずにはいられなかった。

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