バス停で見かけられられた男
「お前、教師のこと舐めてんだろ」
「いえ」
「口答えか?」
ぜってえ舐めてんだろ、と目の前の豚みたいな男、島谷雄一は言う。生徒指導部部長の教師で、職権濫用が服を着て歩いているような存在だ。いや、職権濫用の方がまだ知能があるかもしれない。
「お前な、お前の評価なんかこっちでいくらでも決めれるからな」
理不尽な校則を変えるためにはまず、こいつを通さなければいけない。何度か上の先生と相談しようとしたが、取り合ってもらえなかった。この学校は私立で、こいつの親が多額の融資をしている。つまり、最悪だ。
「お前、生徒会長だからって調子乗ってんじゃねえよ」
「はい、すみません」
学校が嫌になって、と言うよりあいつと顔を合わせるのが嫌になって、俺は家出した。祖父母の家に二、三日居候させてもらうだけの、なんの覚悟もない家出だ。それでも、田舎の空気はやはり気分転換に最適だった。
二日目、僕は祖父の勧めで近くのレコード屋に行った。古びた外装しているが、僕でも知っている有名な曲だけでなく、マイナーなバンドのものまで揃えてあった。その中のいくつかを買って、そこを後にする。外は風が吹いていて気持ちいい。
祖父母の家に帰ると、買ったレコードを全て聞いた。どれも良かったが、中でも最高だったのが、「etc...」と言うバンドのアルバムだった。歌詞と演奏、そして何より歌声が良い。調べてみると、ボーカルは塚浦正樹という名前らしい。勇気が湧くような心強い声だった。
翌日、僕はそのバンドの曲を聴き尽くし、ついでに田舎を歩き回った。
純粋に、この学校を変えたくて生徒会長に立候補した。この学校はおかしい。理不尽が多すぎる。
意を決して職員室の扉を三度叩き、定型の挨拶を口にする。
「島谷先生に用事があって来ました」
島谷がこちらを見る。相変わらず不機嫌そうだ。
「なんだよ、校則の話なら、もう却下したはずだろう」
島谷が唾を飛ばす。周りの視線が集まっている気がする。不快感で冷静さを欠きそうになる。
「おい、聞いてんのか」
そして、あの歌声を思い出す。少し胸が熱くなった。
「うるさいな」
つい、本音が出る。島谷は一瞬怪訝そうな顔をしたが、幸い聞こえなかったようだ。今ならなんでも出る気がする。最高の気分だ。
「先生、この前僕に『お前の評価なんていくらでもいじれる』って言いましたよね」
職員室が騒々しくなる。それに合わせるように、鼓動の音も大きくなり始めた。手が震えている。
「あ?」
「あの一部始終、録音してたんですけど、一緒に聞きます?」
島谷は情けない、間の抜けた顔をする。頭の中ではあの音楽が流れている。
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