200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー!
生獣(ナマ・ケモノ)
第1話 “くーちゃん”と“しーちゃん”
「きゃっ!?」
「やーいデカ女ー!」
「大人がランドセル背負ってるぞー!」
篠崎 黒羽(しのざき くろは)は背が高い。
こうして男子から揶揄われたり、イジメられる事なんてしょっちゅうだ。
しかし……
「やめてっ!」
「しーちゃん……」
黒羽には、彼女が居た。
小柄で、少し気弱だが……とても優しい最愛の幼馴染。
朝霧 白音(あさぎり しらね)……黒羽の全てと言える程に愛していた。
「やめてくーちゃん! 浩太君と勝君から手を離して! 2人共死んじゃう……!」
何しろこの真っ当な忠告にも、イジメっ子ではなく自分を案じているのだと脳内変換する程だ。
しーちゃんに言われたら仕方ない……と、黒羽はそれぞれ掴んでいた胸ぐらから手を離した。
黒羽はプロレスラーの父と躰道の達人である母の間から生まれた。
父から身長と頑強さを。
母から柔軟性と俊敏性を受け継いだ黒羽は、同年代の男子二人程度相手にならない存在だった。
◇◇◇◇◇
結局、虐めてきた二人とやり過ぎた黒羽とで喧嘩両成敗という事になった。
納得いかないわ、と黒羽は内心でぷりぷりと怒っている。
「むぅ……」
「くーちゃんご機嫌斜め?」
「……⁉︎ ううん! 別にしーちゃんに怒ってるんじゃないのっ!」
白音と二人っきりの帰り道、彼女に心配された黒羽は即座に否定した。
(……そうだ、こんな程度でしーちゃんを不安にさせてはダメ。
世界で一番可愛いしーちゃんを守る事こそが私の使命なのだから)と勝手に決意を新たにする。
「それでね、くーちゃん」
「うん?」
「中学は……シロと同じ所に行く、んだよね?」
「勿論よ!」
白音は自分の事をシロと呼ぶ。そこもまた可愛いとご満悦だ。
「でも、くーちゃんは凄く頭が良いから、もっと難しい学校にも行けるんだよね?」
「学校の良し悪しなんてしーちゃんと一緒に居られるかどうかに比べれば些細な事よ」
「そっか……んへへ、ありがと」
「しーちゃん。私はしーちゃんが居ない人生なんて耐えられないわ。
私がしーちゃんと居るのは誰でもない私自身の為なの。
……ずっと、私の側に居てくれる?」
「うん……勿論だよ!」
「良かった! 大好きよ、しーちゃん!」
「へぶっ⁉︎」
黒羽は嬉しさのあまり思わず白音を抱き抱えた。
幾ら白音が小さいとは言えそれでも簡単に持ち上げられる辺り、やはり黒羽のフィジカルは規格外という他ない。
(この幸せを守る為なら、どんな事だってしてみせる……)
そんな物騒な思いを胸に、黒羽は白音を抱えたまま帰路についた。
「下ろしてぇ……」
「……もうちょっとだけ、良い?」
「ん……良い、よ?」
「ありがとっ!」
やっぱり世界一可愛い、と再確認しながら。
◇◇◇◇◇
「引っ越す事になった。黒羽は中学からは東京の学校に通ってもらう事になる」
「……え?」
ある日、父からそう告げられた黒羽は呆けた声を上げた。
父が所属している団体が東京に拠点を移す事になったのだ。
当然、黒羽も着いていく事になる。
「そんな……」
(しーちゃんと離れ離れになる? そんなの嫌だ……絶対に耐えられない……!)
黒羽は動揺しながらも己の思いを乗せるように口を開いた。
「私、東京になんて行きたくない! しーちゃんと離れ離れになるなんて嫌っ!」
「黒羽ちゃん、分かってちょうだい。お父さんはスター選手だし、時期社長候補でもあるから団体を抜ける訳には行かないの。
黒羽ちゃんだってお父さんにプロレスを辞めてほしい訳じゃないんでしょう?」
「そう、だけど……じゃあ私、此処に残る!」
「無理よ、子供1人で」
「じゃあしーちゃんも連れていくわ!」
「そんな事出来る訳無いでしょう。黒羽ちゃんも分かってるでしょう?」
「うぅ……っ」
「急な話になって申し訳ないと思っている。
しかしこちらも急に決まった事でな……世話になった団体を裏切るような事はしたくないんだ。分かってくれ」
「……分かった、わ」
「そうか……ありがとう。ずっとお別れという訳でも無いが、引っ越しの日まで白音ちゃんと沢山思い出を作っておくといい」
「うん……しーちゃんの所に行ってくる」
「あぁ。あまり遅くならないようにな」
父の言葉を背中に受けた黒羽は隣の朝霧家に向かう。
チャイムを鳴らすと白音が出迎えた。
「くーちゃん? どうしたの?」
「しーちゃん……」
「はぇ?」
本当は、分かってなんてなかった。
納得なんてしていなかった。
故に……
「わきゃあああああぁぁぁっ!?」
黒羽は白音を抱えて、走り出した。
いったいどれだけ走ったのだろうか。
気付いた時には見覚えのない河川敷に立っていた。
ゆっくりと白音を降ろして、黒羽も座り込む。
「どうしたの、くーちゃん?」
「……引っ越す事になったの。中学からは東京に行くの」
「え……?」
「お父さんは団体を抜ける訳にはいかないから……私だけこっちに残るのも駄目だって……!」
「くーちゃん……」
話している内に涙が込み上げて来た黒羽を、白音はその小さな手で黒羽の頭を撫でる。
「……しーちゃん、このまま二人で逃げましょう」
「え……?」
「誰にも邪魔されない所で静かに暮らすの!
よく高校生に間違われるし、きっと私が出来るバイトもある筈よ……!」
「くーちゃん……」
「……っ」
白音を困らせてしまった。
その一点で、更に黒羽の表情が曇り出す。
「くーちゃん」
「しーちゃ……!?」
黒羽ひ頰に柔らかい感触を感じた。
白音がキスをしたのだ。
「シロはくーちゃんに悪い子になってほしくない。だから、約束しよ?」
「やく、そく……?」
「そう、約束。今はお別れしちゃうけど、お互いに立派な大人になったら一緒に暮らそう?
法律が変わって結婚出来るようになってたら……結婚しよ?」
「しーちゃん……っ、でも私が居なくなったらまた虐められちゃうわ!」
黒羽と男子のやり取りは一種の戯れ合いというか、虐めと称した決闘のようなものだ。
しかし白音が女子から受けていたソレはれっきとした虐めだった。
今までは黒羽が守ってきたが、その黒羽が居なくなったら……という考えはどうしても頭を過ぎる。
「大丈夫、シロももう中学生だもん。嫌な事は嫌って言うし、強くて優しいくーちゃんの背中をずっと見てきたから。
だから、もう負けないから。ね?」
「……うん」
黒羽はこんなに強い決意をした白音は初めて見た。
これなら……私が居なくても大丈夫そう。
そう思った。或いは、思い込もうとした。
「分かった。凄く寂しいし悲しいけど……約束ね」
「うん、約束」
二人は小指を絡ませて、指切りげんまん。
現在地も帰り道も分からないから交番に向かい、黒羽の父が車で迎えにきてくれた。
怒られはしたが、黒羽が白音との約束を伝えると少しホッとしたように笑った。
そして黒羽は白音の元を離れて東京へと引っ越した。
再会の約束として、お互いに買った四つ葉のクローバーをモチーフにしたペンダントを贈り合って……
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