後編 2/14 22:34
「……おっ おじさん。こっ これ。いつも世話になってるっすし そっ その アッ アタシ おじさんのこと すっ 好きなんで……」
「……ああ。バレンタインのチョコレート? 済まないね。ありがとう」
最近の習慣通り金曜日の夜はトレーニングの後 おっさんのマンションへ。
今年は金曜日がバレンタインだったし 都合よかった。
部屋に入って めっちゃ悩んで タイミング見計らって 決死の想いで渡したチョコと「好き」の言葉を おっさんは けっこう冷静に受け流す。
微妙にショック。
そんなアタシの異変に気付いて おっさんが 横に来て 肩を抱いてくれて そのまま ソファーに2人で腰を下ろす。
「……えっ? ……『好き』って 伝えたの初めて? えっ?ん……あの …その…なんだ…… その… ベッドで
それは 自分でも気がついてたけど あれは おっさんにワケわかんなくされてる時に 思わず口から出ちゃうヤツで ちゃんとした「好き」じゃねぇ。
やっぱ 聞かれてたんだなって再認識させられて 恥ずかしくって おっさんの胸に顔を埋め ボソボソっと思ってることを話す。
おっさんは そんな面倒臭いアタシの後頭部を撫でながら 優しく声を掛けてくれる。
「『好き』って言ってくれて ありがとう。僕も松嶋さんのことを『好き』だと思ってるよ」
アタシに比べたら あっさりした口調だけど おっさんが「好き」って言ってくれる……なんだかんだ嬉しくって もう一度 おっさんの胸に顔を埋め直す。
しばらく 肩を抱いて 黙って 頭 撫でてくれてた おっさんが その姿勢のまま ゆっくりと話し出す。
「……あの…その……なんだ… 松嶋さんって けっこう 形から入るタイプなのかい?」
……たぶん そう。
おっさんの胸に顔を埋ずめたまま 小さく頷く。
アタマ 悪りぃから 自分で考えてとか 苦手な方だと思う。
決まったお手本とかあると安心できる。
ルーティンの決まったトレーニングとかしてるときが 一番落ち着くし。
「……じゃあ…さ。……その…なんだ…お互いに『好き』って告白も し合った訳だし 名前で呼び合わないかい? 『聡美』って呼ぶから『
……聡美って呼ばれる?
想像しただけで 恥ずかし過ぎて 身悶える。
ましてや 嘉則って名前で呼ぶなんて 不可能もいいとこ。
ブンブンと首を横に振る。
「……はっ 恥ずかしいし ちょっ ちょっと無理かもっす」
「そうなのかい? 名前で呼ぶの難しい?」
おっさんは 残念そうな顔。
それは それで 申し訳ねぇ。
アタシも頑張んなきゃいけねぇ気がする。
「……あの『方木田さん』って呼ぶのじゃダメっすか?」
「うん? 『方木田さん』か……わかったよ。じゃあ『方木田さん』『松嶋さん』で いこうか。まぁ 一歩前進だものな」
そう言うと 方木田さんは アタシの顎に指を当てる。
いつも通りに 目を閉じる。
そして 方木田さんの優しいキス。
こっからは ベッドタイム。
きっと方木田さんが アタシのこと ワケわかんなくしてくれる。
その最中なら『嘉則さん』って呼べるかも知れねぇし『聡美』って呼ばれるのも いいかもな……恥ずかしい分 燃えそうな気もするし。
『聡美』と『嘉則さん』。
悪かねぇ感覚かも……。
………。
……。
…。
『煙草の灰』バレンタインSS 金星タヌキ @VenusRacoon
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