秘密裏の羽化

『女のクセになんて、今時になってもいうんですね』

冬の呼吸に混じった　アルコールの匂い

白い煙　喫煙所

スリムな煙草は　

中指の綺麗なファッションリングを際立たせる

皆　彼女をお局様という

けれど本当は蝶だ

誰もいない　夜のオフィスで

髪をほどき　化粧をする

さっきとは　全身違う服に違う靴

コンタクト姿は

もはや羽化

白粉は　さながら、LEDに煌めく鱗粉

あまりの美しさに　毒虫が寄る

蝶は解っている

だから誰にも見つからないように

夜に蛹から蝶になる

虫を見下ろし羽ばたく

彼女の秘密を知っている私は

ただの掃除屋

帽子を脱いで　作業着を脱ぐ

『クセになんて、本当失礼ですよね』

甘い煙を吐きながら

足元はピンヒール

私も

そしてあなたも

───────《了》