結婚の条件

凛子

第1話

 きんぴらごぼうは、ささがきタイプよりもマッチ棒タイプが好みだ。


「得意料理は肉じゃが」と答えておけば間違いない、とよく言われるようだが、実は肉じゃがが好きな男はそれ程多くはないらしいし、あざとい、と感じる男もいるようだ。

 けれど、大好物の肉じゃがを前にした自分の表情は、きっと緩んでいるのだろう、と貴也たかやは思う。

 母親が作る、じゃがいもが崩れた濃い味付けの茶色い肉じゃがも好きだが、上品な薄色で色鮮やかなこっちのほうが好みだ。綺麗な緑色の絹さやが三枚のっかっている。

 その横には、小松菜のシーザーサラダが並ぶ。深い緑色にカリカリのベーコンと瑞々しい真っ赤なトマト、さらに温泉卵なんかものっていて、こっちも色鮮やかで洒落た一品だ。

 それから味噌汁。湯気に顔を寄せると、鰹の出汁の香りにほっこりする。今日も豪華な食卓だ。


 貴也は週に一、二回、恋人の明日香あすかの家で、彼女の手料理を食べる。もう何十回食べただろうか。明日香との付き合いは、もうすぐ二年になる。

 今日も仕事終わりにスマホを開くと、明日香からメールが届いていた。


『ご飯作ったから、予定がなかったらおいで』


 おいで、なんて言われたら……予定があったとしてもキャンセルしてしまうかもしれない。

 貴也は『行きます』と返信して、いつものように胸を弾ませながら明日香のマンションへやってきたのだった。


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