魔物をシール化してステータスに組み込んだらとんでもない数字になってた件
KArin
第1話 異世界転移シール
とある公園のマルシェで、不思議なシールを売っているのを見つけた。
「……あの、これって昔のシールですか?」
「………」
売っていたのは白髪の老人で、ブルーシートの上に何枚もシールが並べられていた。だが、こちらの問いかけに一切応じる気配がなく、なんとも不思議な人だった。
シールにはいくつかの種類があり、人間対魔物のような構成で、人間側が白色のシール──戦士、魔法使いなど──魔物側は黒シールで、ゴブリンやオークなどが描かれている。
その中で、ひときわ目を引いたのは金色とプリズム加工の施されたシールだった。
【プリズムシール】《異世界転移》──異世界に転移できる
【ゴールドシール】《シール化》──どんなものもシール化できる
どこか懐かしさを感じる……昔流行った「ビックリマ〇シール」によく似ている。
小学生のころ流行ったそのシールは、シール目当てに大量購入する子どもが続出し、お菓子が食べきれず捨てられるという社会問題にまでなったほど。全国的な人気を誇っていた。
俺も、当時30円だったそのシールを、入荷日に合わせて近所の小さな商店へ買いに走ったっけ。
大事に集めたビックリマ〇シールは結局、実家に置いたままになり、いつの間にか甥の手に渡っていた。甥がそれを得意げに見せてきた時、俺は返せとも言えず、静かに見送るしかなかった。
「あの店のおばさん、元気かな……。あの頃は子どもには一人三つまでって決まってたな……」
なんだか懐かしくなってしまい、気づけばそのシールをまとめて購入していた。
プリズムシールが5000円、ゴールドシールが2000円。他にも戦士や魔法使い、オーガなどが各500円──意外と高い。
子どもならカッコいいキャラに飛びついただろうが、もうすぐ30歳の独身アラサーはちょっと違った趣味が出てしまう。
「今この機会を逃したら、二度と手に入らないかもしれない」──そんな想いで、気に入ったものはすべて購入した。
満足して公園を後にし、自宅へ戻る。
「はぁ……明日も仕事か。お前はいいよな、モカ。ずっと家にいられて」
茶色の縞模様の猫──モカの背中を撫でてやると、気持ちよさそうにお尻を上げて、いつものシャチホコポーズになった。可愛すぎて、つい尻尾の付け根まで撫でてしまう。
「さて、整理しよっかな」
撫でるのをやめ、文房具屋で買ったばかりのシールブックを取り出す。
俺は“貼る派”だ。
保存方法にはいろいろある。アルバムに挟む派、透明スリーブに入れる派──だが、俺は断然“貼る”派だ。
他人とトレードすることもないし、貼った瞬間に「自分だけのもの」になった気がして嬉しい。だから、気に入ったシールほどしっかり貼って保存する。
それは、小学生のとき──
抽選で当たったビックリマ〇のビッグアルバム(ゼウスやデビルなど初期セット入り)を友達に見せたら、お気に入りのセントフェニック〇(進化前)がこっそり盗られていたことがきっかけだった。
あの時は、本当に2週間は落ち込んだ。今でも思い出すと胸が痛くなる。
そんな昔の記憶を思い出しながら、プリズムシールを慎重に剥がす──
そして、その瞬間、それは起こった。
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(【異世界転移シール】発動──現所有物をシール化します)
「えっ……誰の声……? シール化ってなに?」
部屋の中の家具や家電、衣類までもが、次々と音もなく消えていく。
「何が起きてるんだ……」
(全てのシール化が完了。異世界転移条件を満たしました)
「うわあああああああ!」
手に持った【異世界転移シール】が強く発光し、目を開けていられないほどの光が周囲を包んだ。
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▼▼▼▼
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「……ここ、どこ?」
そこは見たこともない森の中だった。
「シールの名前通りなら……ここは、異世界ってやつか。でも、どうすりゃいいんだよ……」
ふと、ズボンのポケットに違和感を覚える。
「……シール? でも……多くないか?」
公園で買った以上の数がある。中には、テレビやこたつ、果ては──
「モカ……! シールになってる……。ちゃんと太ってる……かわいい……」
──あの声が言っていた。“現所有物がシール化されます”と。
「ってことは……さっきの【異世界転移シール】は、剥がした時に発動したんだな。じゃあ……これも?」
手に取ったのは、【シール化シール】
裏面には──
《所有物をシール化することができるスキル》
「試してみるか……」
恐る恐る【シール化シール】を剥がすと、パッと光り、そのまま消えた。
試しに足元にあった石を拾ってみる。
「“シール化”」
石がスッと消え、代わりに【石シール】が手に現れた。
「……すげえ。裏には“少し硬めの石”って書いてある」
試しに剥がしてみると、元の石が手の中に戻ってきた。
「元に戻せるのか……すごいな。じゃあ、これも試してみるか」
【黒コートシール】を剥がすと、昼に着ていたユニ〇ロのロングコートが実体化した。
「寒かったし、助かる……さて、他のシールは?」
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【戦士シール】──力+1、防御+1
【魔法使いシール】──知力+1、魔力+1
【盗賊シール】──素早さ+1
【オーガシール】──力+3
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「オーガの力+3はでかいな。少しは違うかな?」
先ほどの石を再び握ってみる──ガリッ、と音を立てて真っ二つに割れた。
「マジかよ……本当に力が上がってる。もっと買っときゃよかったな」
残しておいたシールを除き、部屋にあった物もシール化されていると信じて探してみる。
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【包丁シール】──工場製の量産型包丁
【水シール】──ペットボトル入り天然水2L
【かばんシール】──リュックタイプの鞄
【カップラーメンシール】──お湯3分で完成
【ガスコンロシール】──調整可能な携帯用コンロ(ガス付き)
【くつシール】──通気性の良いランニングシューズ
【帽子シール】──水をはじく素材の帽子
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「これだけあれば、しばらくはなんとかなる……実体化っと。
誰か、優しい人に会えればいいけどな……」
防災講座で買い置きしておいた水とカップラーメンが、いまは心強い。
“遭難時はその場で待機”が基本だが、今は遭難じゃない。
俺が異世界に来たことを知ってる人間なんて、誰一人いない。
「……仕方ない。行くしかないか」
俺は、あてもなく、森の中を歩き出した。
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