第6話 公爵令嬢とエミリーと、とある冊子
エミリーの祖父はクラレンス王国との交易の経路づくりに尽力し、公式な貿易ルートを作り上げた。二国間の関係改善に関与した功績により爵位を賜った。商人としてかなりの財産を持ち、王家の非公式ながら顧問を勤めるなど存在感を持ったためかなり反発もある。祖父の代では准男爵だが、エミリーの父の代になって男爵位を賜った。かなり優秀な一族で王家に重用されそこも反発される原因だ。エミリーも少し……かなり天然だが(計算された天然ではないはず)やはり優秀だ。
などと考えていたら、コンスタンスが
「懐かしいわね……ちょっと口に出てたわよ」と言われ流石に恥ずかしい。彼女は続けて、「あの日ねエミリーの事件が起こるまで、皆様注目はあなただったのよ。ほら、貴方はずっとお出ましにならなかったでしょ。大体五歳位から母上と一緒にお茶会とかで、お披露目されるのにヒューズ公爵家程の高位のご令嬢がガーデンパーティーまで、姿を現さないなんてなかなか無いことなのよ」
「だから改めて思い出すと人だかりがあったのね」
「まあね、で本物見られて皆感動よ」
やっぱりコンスタンスにあの日観察されていたのね。
「でも、エミリーが全て持っていったと……」
「ええ、皆の王子様たるお二方と言葉を交わせる方はなかなかいないから、変なウワサを立てられるのも仕方ないとは言えるわ。あの場でもあの後はずーとあの話よ。あんな事件中々無いわ」とコンスタンスが言う。
「しかし、それにしても人の噂や想像力には、七歳の子が王家乗っ取りとか、色々ありました。魔女だの占いだの、創作力には驚きです」
「まあ、そういえば、あの頃かしらね……占いとかで隣国で大変なことが起き、寵妃が失脚したり、かの昔には草に詳しいから魔女とか決めつけられていたこともありましたよね。でも、まあ、あれは……彼女がすぐあなたと仲良くなったからよね。あなたのせいかもね……フフフ……」
といつの間にか出して扇で口元を覆った。本当に優雅な所作だが今は腹が立つ。しかし、この貴族社会や社交の場での、さり気ない戦闘力の高さ……見習わなくてはいけない。
「え?」「何度も言うけど、あの時一番注目されてたのはあなたよ。あなたの全てが見られていて、ああ、そうそう、わたくしの母なんてメイドに頼んで挨拶した方々を記録していたのよ」
怖くなってきたが、うーん、確かにこの国ではイケメンカタログだけではなく貴族特集みたいな冊子などであり、貴族自身から庶民まで広く愛読されている。
そういえば、その冊子、貴族の奥様方やメイドなどが書いている例もあるらしい。過去にはあることないことそれこそ著者の想像や願望なども入っており、色々あって、犯人?(作者)捜しで大変なことになったとも……
新聞社がとある歌姫の記事を載せ、騒動になったが、その元はとある奥方がその女性と夫の関係を疑い新聞に持ち込んだそうだ。これは完全な作り話だったが、この辺の冊子を読んで少し取材して書いている記者もいるらしい。
こういう事が結構あって色々規制だなんだのいわれたため、その後はまあ節度ある記事にはしているらしい。確かにとある夜会で、とあるご夫人やご令嬢がどなたと踊ったとかみんな知っていることではあるしね。あと、それには周辺国の情報も載っている。そこはお上も目を光らせているので、本当に気をつけて書いているらしい。この文化は周辺国にもあるらしい。クラレンスでは私達はどのように書かれているのだろう?
「そうなのですね……しかし改めて聞くと……あの頃知っていたら逃げ出したくなったでしょうね……」
「確かにあの頃のあなたならそうでしょうね。でね、そんなに注目されていた貴方が駆け寄ったんですもの……あの時のあの子達だんだん注目されだしていたのに、あなたまで来たら皆に知られますわ……それに皆に見られていてもエミリーとどっかの令息、そして王弟と王太子の話の内容は聞こえてない人がほとんどだもの、皆様の想像力でカバーよ」
「そうですわね」「やはり自分の立場を自覚せず、大量の視線を彼女に向けさせたあなたのせいね」
「そう言われてしまうとそんな気がして参りました……エミリーはある意味有名だったのですよね」
「あの家は有名だから……でも、彼女の顔は知られてなかったので、最初から好奇の視線にさらされることはなかったみたいね」「そう……」なんか逃げたい。
そこにマーナが現れて、
「お話し中失礼します。この後の会合ですが、若様は王宮から公爵様に呼び出されたので、参加できなくなったそうです。そのため先に挨拶をするのにここに通せということです」
「そう、どうぞ」
どうせ拒否しても入ってくるはず……コンスタンスは、それを聞いたとたん、ピシッとしつつも柔らかな雰囲気になった。さすがね。
やがて兄が爽やかに入ってきた。
「失礼するよ、ありがとマーナ」と視線を送った。
マーナはニコニコしつつ受け流す。いつも毎日こんな感じだ。
それでも、コンスタンスは一瞬ニコニコしつつも彼女を睨んだ。
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