ねきご
@Past_02
ねきご
東京にある私の実家の物置に、古い写真を集めたアルバムが置いてあった。「ねきご」とメモ書きのある紙や、脚のない女の子が映っている写真が綴じられており、その道に詳しい友人と一緒に調べるとその全ての写真が撮られた場所が関東某所にある、人里離れたとある集落であることが分かった。写真について両親に訊くと、歯切れの悪い解答しか得られず、分かったのは、昔その村に自分たちも居たということだけだった。
ホラーをテーマに扱う雑誌の記者である私は、両親には告げず、その村に取材をしに行くことになった。
東京から新幹線を使い、何時間も掛けてその村に付くと、辺りは少し暗くなっていた。
遠くに、赤い着物を着た女が見えた。やけに長い裾を地に擦って歩いている。
村には人が、少なく、今にも飲み込まれそうな暗い山が異様な雰囲気を醸していた。
更に村の人の噂を伝い、20分ほど掛けて村長に会いに行き、開口一番に、「ねきご」という言葉が何かを聞いた。
一瞬空気が冷たくなったのを感じたが、村長は少し間を開けて、「ねきご」について語りだした。
村長
「ねきごっちゅうのはね、この村に昔からある風習なんよ。この村は昔から人が少なくて、山に囲まれてるから働きに出るにも脚が伸びん。やから貧しかったんよ。よう流産したり、母親ごと仏になったり、それは荒れてたみたいやね。
それで、ねきごっちゅうのが生まれた。
まあひどい話なんやけどな。双子が産まれたら、片方の身体の一部をノコで切るんよ。
当たり前やけどその切られた子は死ぬわけや。
それで、死んだ子は、身体の部位が無い子として、無き子(ねきご)と呼ばれるようになった
切る部位が重要で、残された双子の片方の子に持たせたい力の部位を切るんよ。
嫌な話やけど、農作業する家柄やったら、足腰が重要やからねきごの足を切るんよ。漁師は腕、中には街まで奉公して毒見をする裕福な仕事してた家なんかもあって、そこは舌を切ってたみたいやね。舌を切ったくらいでは死なんから、鳶(トビ)でとどめを刺してた。そうすることで、残された子は元気に生きると信じられてたんよ。
切った足や手とかを保管して祀る祠もあって、(山を指さす)あそこにはねきご様がおるから13になるまでの子供が近付いたら絶対にあかん。あとは、ねきごの片方。要するに生き残った子は近付いたら絶対にあかん。
ねきごの風習は続いてたんやけど、ある時変なことが起き出した。その生き残った方の双子の子が子供を産んだら、どっかが欠けた子供が産まれる。しかもその欠けてる部位は絶対に片方のなきごから取った部位が欠けてるんよ。ねきごさまの呪いや言うてみんな恐れたみたいやわ。やからこの村には足や腕が欠けた子が何人かおる…」
あまりに惨い話に背筋を伸ばしながら聞いていると、村長は取材するならと、一人の女性を私に紹介した、B子という女性で、その足でB子の家を訪れた。
B子は村長の紹介ならと、感じの良い対応をしてくれたが、ねきごについて聞くと、やはり表情が強張る。やがて目をうつろにしながら、話し始めた。
B子「A子という友達がおってね、赤い着物を擦って歩いてる子なんやけど」
B子が見せた写真のA子という女には脚が片方なかった。
B子「この子はねきご様に取り憑かれたんよ。13の掟を破ったから。
昔はあんなしおらしく無かったのに、かわいそうやねぇ。もっと元気な子やったんよ。
あぁ、ごめんなさいね、この子は13歳になるまえに祠に近付いてしまったんよ。
元気でイタズラする子やったからそのときはきつく叱られてもヘラヘラしとった。でも祠に近付いて何日か経ったら段々元気がなくなったんよ。強い吐き気を訴えるようになったんよ。
ある日A子ちゃんの家に遊びに行ってた日に、A子ちゃんの呼吸が、急に荒くなったんよ。私達も慌てて皆で集まって見守ってたら、A子ちゃんな、げぇーしてん、A子ちゃんのお母さんが背中擦ってんねんけど、まだなんか苦しそうで、「あがっ」っていう悲痛な声とともに肌色のなんかを吐き出した。赤ちゃんの足やった。
縁起も悪いしそのことは村では禁忌になって、私も街に出てイラストレーターとして仕事をするようになってからこの村のことなんか忘れてた。4カ月前にこの村に帰ってきたらねぇ、Aちゃんは足がなくなってた。お医者さんが言うには壊死したんやて。可哀想で仕方ないわほんまに」
哀しい目をしながらB子さんは話し終えた。
その後は村長が例の祠に連れて行ってくれた。
田舎で滅多に人が来ないから取材には寛容で助かった。
すっかり暗くなった山を30分ほど踏み、祠に辿り着いた。まさに禍々しいという感じで、朽ちた赤い板が昨夜の雨でぬらぬらと光っていた。
少し気分が悪くなりながら、村の人々に挨拶をし、その日の新幹線に乗り、東京に帰った。
その日から強い吐き気に悩まされている。
ねきご @Past_02
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