第29話 最強の援軍
赤騎士はブレイグの元へ歩み寄ると徐に兜を外した。
兜を取ったことで現れたのはガタイのいい髭面のオッサンだ。
「これはまた、酷いやられようだな……」
すると今度は少し離れた場所で倒れたギードを一瞥し、
「なるほど、ギードがやられたと聞き参ったが、まさかブレイグまでも。犯人の特徴は黒髪の男……だったな」
その後遠夜達を睨むように見て言った。
「ん?まさか、本当に君が?ふむ、マナを感じない……確かに妙ではあるが。グランドナイト二人を倒せる程の実力には見えんな」
男は顎に手を当てて首を傾げている。
油断してるのだろうか。
遠夜は迷っていた。この状況下で話し合いが通用するとは思えない。相手が油断してる隙に先制攻撃を仕掛けるか、それとも今すぐここから逃げ出すか。
遠夜の選択は後者だった。
「きゃっ――!?」
遠夜は咄嗟に横にいたアルテの身体を抱きかかえ、アクセルを使って近くの民家の屋根上へと飛び上がった。
全速全開で街の上を駆け抜ける。
「きゃああああ――――!」
アルテの悲鳴が街中に響き渡る。
駆け抜けながら後ろをチラ見すると、赤騎士が凄まじいスピードで追いかけて来ていた。
「ハハハッ!その身の熟し、やはり只者では無かったな!」
アルテを連れてる分スピードが落ちてるとは言え、この速度についてくるとは。やはりこの騎士もグランドナイト以上。
空中で回転しながら銃口を向け、サラのアシストを借りながら射撃。
「……っ!」
複数の光弾が赤騎士を襲い、空中でその身体を撃ち落とした。
「よし……!」
やはりグランドナイトと言えど初見で銃弾を見切るのは不可能。
しかし赤騎士はすぐに復帰して、再び遠夜達の後を追って来た。
「フフハハハッ!恐ろしく速い!そしてマナの波動や起こりも一切感知出来ぬ、厄介な術だ……!」
そう叫んだ赤騎士は空中で輝く剣を素早く振り回すと、複数の飛ぶ斬撃が高速で飛来した。
「まじかよ……!」
アルテを抱えたまま斬撃を上手く躱す。
その度にそこら中の民家が両断され、地上にいた民間人の悲鳴が上がる。
そんなの無視して突き進むと、ようやく街壁が見えた。あれを越えれば街の外へ出られる。
そう思った時、巨大な斬撃が横一文字に飛来した。
それを躱す為に遠夜は真上へと跳躍、その瞬間を狙われた。
赤騎士は縮地の如き高速移動で一瞬にして眼前に差し迫った。
――速ッ
咄嗟にバリアを展開するが、赤騎士のマナブレイドが容易くその圧力を押し返した。
遠夜は即座にアルテを守る様に抱きしめる。
AS解放により出力の増加したバリアのおかげで、斬撃自体は遠夜にもアルテにも届いていない。しかし発生した衝撃の余波は遠夜達を野球ボールみたいに高く跳ね飛ばした。
アルテの悲鳴が耳元で響く。
遠夜は歯を食いしばって、目を見開いた。
少し離れた場所に街が見えている。真下には草原が広がっていた。
――ここは街の外……今の一撃で街壁の外まで吹っ飛ばされたのか。
空中で体勢を整えつつ叫んだ。
「アルテ無事か!」
「無事なわけないでしょッ……!?」
半泣きで叫ぶ彼女を見て安心する。
遠夜はアルテをお姫様抱っこしたまま地面に着地、勢いそのまま数メートルに渡って足裏で砂利を磨り潰すように慣性を殺した。
「はぁ」
息をついたのも束の間、背後から気配を感じとる。
赤騎士が剣を片手にこちらへ歩いて来ていた。
――こいつ、余裕こきやがって。
アルテを降ろし、赤騎士に向き直る。
「このまま逃がしてくれるわけ、ないよな……」
「ここまで暴れておいて良く言う。こっちにも体裁というものがあってね。それに君にはウチの部下が随分と世話になった様だし……しっかりとその礼をさせてもらわねば」
そう言って赤騎士は不敵に笑う。
――こいつ、強い。おそらくさっきの二人よりも格上だ。
横目にアルテを見る。
せめてこの子だけでも逃がせたなら。
そんなことを思った時、赤騎士が右手を自らの左胸に添えてこちらを真っ直ぐに見据えた。
――まさかっ。
「精霊召喚――グラニティス」
地鳴りと共に突如地面から巨大な砂岩の巨人が出現する。
体高約三十メートルはある。だがその巨人に下半身は無く、上半身のみが地面から生えた状態だ。
「やられた……」
奴が精霊召喚を使う前に一発で仕留めてしまえば良かった。
――いや、まだ間に合う。幸いここは街の外、大技をぶっぱなすには丁度いい。あの見た目とサイズで素早い動きは困難なはず。奴の大技が来る前に、コイツで一撃で仕留める。
マガジンを熱弾に差し替えた。
握った銃身に熱が帯びる。微かに漏れたエネルギーで雷光が走る。
「
予備動作も無く即座に放たれたその一撃は、砂岩の巨人を一瞬にして蒸発させる程の火力だった。
真横で起こった強烈な大爆発に赤騎士は目を細め身を堪えた。
アルテの悲鳴が爆音に呑まれる。
やがて爆轟と強い熱風が過ぎたその場所には、精霊の姿は跡形もなく、大地にはドロっと赫いクレーターだけが残されていた。
「な、なんと言う……」
赤騎士が面食らった様子で立ち竦んでいる。そんな彼へ銃口を向け、遠夜は言った。
「動くな」
赤騎士の顔に緊張が走る。
目付きが先程と違う。本気で警戒した目だ。
「これは警告だ。今のを俺は連射できる。街への被害を考慮して使わなかったが、お前らが俺達をこれ以上深追いすると言うのなら、俺は容赦なく引き金を引く」
「……なるほど、街一つを人質にするつもりか。とんだ大悪党だ」
「人聞きが悪いな。ここは引いてくれって頼んでるんだ」
「悪党の脅しに屈しては騎士の名折れ。ここで引く訳にはいかんな」
「……っ、じゃあどうする?ここでやり合えば後ろの街もタダじゃ済まないぞ」
「勿論、諦めぬことこそ我が騎士道だ」
赤騎士は再び右手を心臓に当てた。
「精霊召喚――ギルシュタイン」
――バカな、二体目だと!?
呼び出された精霊は黒く、影のような姿をした騎士だった。
――人型の、精霊……?
「彼は嘗ての亡国で英雄と崇められた騎士だそうだ。制御が難しいのが難点だが、実力はパラディンである私と同等以上だ。君を切り刻むのに時間はかからんだろう」
――パラディンだと?まだ本気を出してないだろうと思ってたが、これがこの男の切り札か。
先手を取ったのは影の騎士だった。
一瞬にしてその場から消え去り、次の瞬間には目前にまで差し迫った。
「きゃっ――」
咄嗟にアルテを右手に突き飛ばし、その反対方向へと飛び込んでアルテとの距離をあける。
釣られたように影の騎士が遠夜の方へと迫り来る。
――こいつらの狙いはあくまで俺、アルテには近づけさせない。
追る影の騎士、身体と同様に影で作られた長剣が空気を震わせ襲い来る。
遠夜は肌で感じていた、背筋が凍るようなその圧力を。
身体を逸らし、紙一重でその斬撃を躱す。
遠夜の黒髪が数本宙を飛び、続けて切っ先に触れてすらいない地面が大きく斬り裂かれた。
「――なっ!?」
――何だこの斬撃は……!?
返す刃でまた斬撃が来る。
再び間一髪で躱した。が、躱したはずの遠夜の腹部から何故か血が飛び散った。
腹からの出血、間髪入れぬ攻撃、面食らった遠夜は〈アクセルで〉後方に大きく飛び退き体勢を整え着地した。
腹の傷を触って確かめる。
――傷は浅い……だがあと少しズレていたら。何だあの剣は。間合が伸びた?
すると遠夜の疑問に赤騎士が答えてくれた。
「ギルシュタインは影の騎士。影が伸びる範囲全てが彼の間合いとなる」
つまり奴の剣だけではなく、奴の影にも注意が必要ということ。
――チート……って程じゃない。実際間合いが伸びると言っても大した距離じゃない。剣と剣での戦闘なら厄介だが、間合いをとって戦えば遠距離攻撃のある俺に部があるはず。
ただ問題は――。
赤騎士を見た。
赤騎士は顎に手を当てて何か考えている素振りをしている。
遠夜は焦る。この男が戦闘に加われば二対一。流石にそれはまずい。
すると赤騎士は徐に口を開いた。
「ふむ……なるほど。何となくだが君の全容が見えてきた。魔術師にしては大した身のこなし。だがそれもパラディンの領域には達していないと見える。今の一瞬の攻防で紙一重、そこに精霊の顕現による加護を受けた私が加われば、君の首にも刃が届きそうだ」
赤騎士の男は怖いくらいに冷静な目でこっちを見ている。
遠夜は息を呑んだ。
「気がかりは君の魔術だ。あの破壊の魔術がある以上不用意に飛び込むのは得策では無いと踏んでいたが、何故か君はそれを使おうとしない。何故だ?」
遠夜の額に汗が滲む。
痛いところを突かれ、思わず遠夜の口が閉じる。
「マナ切れか?まさかな。マナを感知出来ぬゆえ何とも言えぬが、マナが枯渇した割にはさほど息も上がっていない様に見える。ならば可能性として、今は魔術を行使出来ぬ理由がある。そう考えるのが妥当か」
遠夜は何も言えなかった。
少し離れたところでアルテが不安そうに遠夜を見つめている。
赤騎士の考察は大正解。
先程の熱弾によるオーバーチャージは現状遠夜の出せる最高打点であり、牽制のつもりで放った一撃だった。
銃身に負荷をかけるオーバーチャージは連続でそう何度も撃てる技じゃない。それに至近距離で撃てば遠夜やアルテにも被害が及ぶ可能性だってある。熱弾の数にも限りがあるし、奴を諦めさせる為だけの一発だったのだ。
「ふふ、先程は窮地と思ったのだが、どうやら図らずも形成は逆転したようだ」
赤騎士はその髭面で不敵に笑みを浮かべた。
――くそっ、舐めやがって。
こうなれば強化弾で対応するしかない。そして奴らが熱弾への警戒を解いた瞬間を狙う。自身へのダメージも覚悟で、至近距離でフルチャージをぶち込む。
そう意気込んで、遠夜がグリップを握る手に力を込めた。そんな時だった。
目の前の赤騎士の表情が突如変わった。
目を見開いて、酷く驚いた顔をしている。
その直後、彼の目の前にカッと青白い光が立ち、
「……は?」
遠夜は思わず声を漏らした。
一瞬のことで何が起こったか分からなかったが、遅れて遠夜は理解した。
いつの間にか赤騎士の目の前に、鎧を着たもう一人の騎士が立っていたのだ。
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