第9話 測定不能な存在

 改めてアメスに連れてこられた建物の外見をセツナは俯瞰する。“前の世界”基準で例えるなら、一種の役所に似ていると感じていた。尤も、中の気配から察するに、普通の建物でないことは明らかだった。

 そんな事をセツナが考えていると、


「それじゃあ行きましょうか、セツナくん。私の後についてきて」


 アメスが重厚な扉を開けて一緒に中に入る。

 すると、中にいた武装している人間の視線が幾つも突き刺さる。


〔ほぅ、が連れてきたのがどんな人物かと思えば中々の手練れだな〕

〔一度、手合わせしたいくらいだ〕

〔自分の目を以てしても、そこが見えない。一体どれほどの実力を秘めているのか〕


 通路を歩いていると、様々な言葉を耳にしているがそのどれもが、セツナに対し適切な評価をする。セツナからすれば意外で、もっと敵視されると思っていたからだ。ただ、それよりも気になる一言があった。


とはなんだ? アメスさんの神聖な気配と関連性があるのか?)


 そんなセツナの心配をよそに、アメスはその単語に気にも留める様子は見受けられず、己が職務を粛々とこなしていた。


「さて私も仕事を始めます。セツナくんはそこの受付の座って」


 アメスの指示通りに机を挟んでセツナが座ると、対面にアメスが立つ。


「冒険者ギルドにようこそセツナくん。さて、あなたの潜在能力を確かめるから、机の上にある水晶に触れてもらえるかしら」


 言われるがままセツナは水晶に触れる。

 すると、水晶は震えるようにカタカタと揺れ、その振動はどんどん大きくなり

 セツナは眼前にいるアメスに視線を移すがニコニコして笑顔を浮かべている。こうなる事を予見している感じだった。

 処が周囲の反応はま逆で建物ないは大きな喧騒に包まれる。


〔おい! かつての大魔女が水晶にひび入ったという逸話は聞いたことあるが、もしやと同等だと言うのか?〕

〔一体、あいつの戦闘力はどれほどまでにあると言うのだ!?〕

〔自分たちは伝説を目撃しているのか!〕


 この事態に訳がわからず、セツナはアメスに訊ねる。


「アメスさん。これって一体何が起きたのですか? アメスさんは落ちついていますけど、周囲の人々の喧騒がただならないんだけれど?」


 セツナの言葉を聞き、アメスは笑顔の表情を変えず、この状況に陥った先ほどの出来事を説明する。


「セツナさんが触れていたのは、個人の戦闘力を数値として表す検査魔道具です。冒険者の殉職を避けるために皆々様に行って頂き、それに見合った依頼をこなしてもらっています」


 なるほど一理ある、とセツナは思った。と同時に、数値化でのランク分けは腕に自信のある者たちにとっては批判的な意見もある事もなんとなく理解した。

 そう、セツナが思考する間もアメスの説明は続く。


「先ほどの水晶が砕けた原因は、セツナさんの戦闘力が想定していたものより高くて計測不能となって耐えきれなかった、と云うことです。一応、壊れる直前までのデータは印刷されているのですが……殆どが文字化けで参考にはなりません。辛うじて読めるのは魔族への適性が一番上のクラス、という事です」


 アメスの言葉に周囲が別な意味で驚きと喧騒に包まれる。なにせ、前代未聞の事が目の前で起きていたからだ。


「カードが出来上がったので受け取ってください。これがあれば身分証明書の代わりになりますので、無くさないでくださいね。……さて、この喧騒ではセツナくんは落ち着けませんね」


 アメスは未だ収まらぬ周囲の喧騒を見渡すと、暫しの考えのあとセツナに言葉を切り出す。


「では、一応ここのギルド長に会っておいてください。貴方の力を以ってすれば会う時間すらもないくらい忙しくなるでしょうから。なので、会えるうちに挨拶だけはしていてください。そこでギルド長から、この建造物の案内と役割りを訊いてください。ギルド長の話しが終わったら、ひとまず私の家に戻ってください。通信魔法で両親には話を通しておきます。あ、クロエたちの修行を見て行っても構いません。ただし、手は貸さないでくださいね、修行になりませんから」


 アメスの最後の言葉に一瞬寒気を覚えたセツナ。そんな素振りを見せる事は何とか内に止め、ギルド長に会うべく建物の二階へと続く階段を登っていく。

 想定外だったのが、このギルド長の話がとてつもなく長く、かといってアメスさんの手前、無碍にも扱う事もできない。

 セツナにできることはいつ終わるかわからな長話を延々と聞くことのみ


 ようやく解放されギルドから出れた時は、夜の帳が下りる時間帯になっていた。

 取り敢えず、帰ってミネルヴァ夫妻の仕事を手伝おう、と思い色々な縁で出会ったこの地で休める場所に戻るために帰路に着くセツナだった。


(少し、トントン拍子に事が済んでいるのは恐らく、あのの仕業だな。デビルの群れに放り込んでこのセカイのと戦わせること。そして、クロエちゃんとの出会いからアメスさんへの縁。なんらかの作為を感じざるを得ない。これもこのセカイで自分がやるべき事に繋がっていると言うことか?)


 そう思い、帰宅の途についていると、数人の見知らぬ男の気配をセツナは察する。

 一般人ではない。相当の手練れだと言うのがすぐ分かった。が、敢えてセツナは知らぬ振りをして、道角を曲がる。すると、セツナを囲むように四人の男が立ち塞がる。


 



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