女子テニス部のダブルス美女コンビは、なぜか非モテな俺と二人っきりになりたがる
さばりん
第1話
4月桜散りゆく中、迎えた入学式。
今日から、中学生として新たな学校生活が始まろうとしていた。
期待と不安を胸に、校舎へと続く新緑芽吹く銀杏並木を進んで昇降口前に辿り着くと、桜舞い散る木の下で、家族と一緒に入学祝いの記念撮影をしている女の子の姿が視界に映り込む。
「……!?」
肩甲骨辺りまで伸ばした黒い髪を靡かせ、恥ずかしそうにピースして微笑む女の子を目にした瞬間――
(か、可愛い……!)
一瞬で胸を打たれた。
小学生で初めての失恋を経験して以来、仄暗かったモノクロの世界が一気に彩られていく感覚に見舞われる。
クリっとした可愛らしい鼻目立ち、血色の良い肌艶、薄くて色味の良い唇。
両親との記念撮影を終えると、女の子はふとこちらへ顔を向けてきて視線が交わる。
しばし見つめ合ってから、彼女はパっとひまわりのような華やかな笑みを浮かべた。
刹那、胸に突き刺すような痛みが迸る。
完全に一目惚れだった。
(決めた……! 俺、絶対にあの子と付き合ってみせる!)
当時、新中学一年生になろうとしていた
しかし、お近づきになるため必死に探したものの、怜央はこの女の子を見つける事は出来なかったのである。
◇◇◇
あれから三年の月日が流れ、
中学の入学式での思い出もすっかり記憶から薄れ、高校生として新たな生活が始まって数週間。
クラスには馴染んだものの、未だに彼女いない歴=年齢を更新中の非モテ男子である。
季節はまだ四月下旬だというのに、既に初夏の日差しが差し込み始め、蒸し暑さすら感じるお昼前の時間帯。
パコンッ! パコンッ!
中高一貫校である私立
コート内では現在、体育の授業が行われており、テニスのクラス対抗戦真っ最中。
「
「はいよー!! 次は
「えぇ……!」
声を掛け合いつつ、息ぴったりのコンビネーションを繰り広げているのは、
二人はテニス部が誇るダブルス美女コンビとして名を馳せており、学年二大美女として男子生徒から絶大な人気を誇っている。
「おぉっ!」
彼女達がボールを打ち返すたびに、コート脇で試合を見物しているクラスメイト達から歓声が沸き上がる。
そんな彼女たちのプレーを、クラスメイトである
愛菜・夏姫ペアは、息の合った連係プレイで、相手クラスの女子テニス部員を圧倒。ポイント差をどんどん広げていく。
「マッチ・ザ・ゲーム。小桜・星宮ペア」
そして、ついに愛菜・夏姫ペアがマッチポイントを迎える。
相手も一矢報おうと、ラケットを強く握り締めて集中力を高めていく。
「はぁっ!」
バコン!
っと、愛菜の風を切るようなサーブが放たれる。
しかし、相手の部員も負けじと必死にそのボールを打ち返す。
パコッ、パコン!
そこからしばらく、白熱のラリーが続き、周りで見ていたクラスメイトも固唾を呑んで戦況を見守り始めた。
緊迫した状況の中、ラケットでボールをはじき返す音だけがコート内に木霊する。
「とりゃぁぁぁーー!!」
すると、相手が声を張り上げながら、渾身のショットを放つ。
ボールはライン上ぎりぎりのコースへ飛んでいく。
「っ……!」
咄嗟に愛菜が反応して追いかけていく。
愛菜は体勢を崩しながらも必死に手を伸ばし、なんとかボールをラケットに当てることに成功する。
しかし、ボールに威力はなく、弱弱しく浮き上がったボールは相手コートへヒョロヒョロと向かっていく。
「チャンスボール貰ったぁー!」
相手がほくそ笑み、スマッシュを打つ構えを取った瞬間。
前衛にいた夏姫が、まだ立ち上がれぬ愛菜をカバーをするため後衛へと下がる――
と見せかけ
なんとネット際ぎりぎりまで一気に飛び出した。
その動きはまるで、相手の打つスマッシュのコースを読み切ったかのよう。
刹那、相手が振りかざしたスマッシュは、夏姫が予想した通りの場所へ飛んでくる。
夏姫は一歩身を引いて、スマッシュの威力を打ち消して、ラケットにチョコンとボールを当てた。
ふわっと跳ね返った宙に浮いたボールは、ネット際ギリギリの高さを超えていき、ドロップショットとなって相手コートにポトリと落ちる。
「ゲームセット。勝者、小桜・星宮ペア!」
愛菜・夏姫ペアの勝利が決まった直後、手に汗握る試合展開を見たクラスメイト達から、一斉に大歓声が沸き上がる。
「すげぇ! まるでプロの試合見てるみたいだったぜ!」
「星宮さん! さっきのドロップショット何!? 凄すぎるんだけど!?」
「小桜さんもあの厳しいボールに良く追いついたな! 感動した!」
クラスメイト達が各々歓声を上げる中、怜央も二人へ祝福の拍手を送る。
勝利した愛菜は片膝を吐きながらふぅっと一息つく。
すると、夏姫が近くまで駆けよってきて、愛菜へ手を差し伸べる。
そして、ふっと破顔した愛菜が夏姫の手を取り立ち上がり、どちらからともなく軽いハグを交わして健闘を称える。
挨拶が終わると、クラスメイト達が一斉に彼女たちの元へと押し寄せた。
「凄かったせ二人とも!」
「流石はわが校が誇る美人ダブルスペア! 華があるぜ……!」
クラスメイトに取り囲まれ、『えへへっ、ありがとー!』っとにこやかな笑みを浮かべている夏姫に対して、愛菜はすました様子で艶やかな髪を手で靡かせ、他の人から見えないところできゅっと口元を引き結ぶ。
その愛菜の表情を目にした怜央は、思わず頬を引きつらせた。
「アイツ……」
怜央が呆れ交じりに言葉を漏らした直後――
「じぃー」
「じぃー」
ほぼ同時に、隙を見計らって夏姫と愛菜が熱い視線を怜央に注いでくる。
怜央は咄嗟に顔を逸らして、二人の視線を受け流す。
「むぅ……」
「むぅ……」
そして二人は、そんな怜央の反応を見て不服そうな表情を浮かべていた。
(反応できるわけないだろ……)
他のクラスメイト達は知らないのだ。
怜央が学年二大美女のダブルス美女コンビとそれぞれ二人で別々に会っているという事を……。
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