第4話 ついにお別れの時

〖海人が転生する前のある日の登校時〗

「おはよう海人」

「…」

「今年もここの桜通りは綺麗だね」

「そう…だな」

「ねぇ、スマホばっかりいじってて何見てるの?」

「見せるわけないだろ。ほっとけよ」


「今日は帰り道、去年みたいに春祭りに寄らない?」

「行かない。誰か誘って行ってこれば?雪奈は俺と違って人気者だから誰でも一緒に行きたがるんじゃない?」

「私は海人と…」


「はぁ…俺は行かないって。しつこいんだよ。」

「ごめん」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目覚めが悪い夢を見た。ここのところ毎日似たような夢を見る。

(原作の)俺がとことん、クズキャラっていうのは分かった。

雪奈にあんな申し訳なさそうにするのを毎日繰り返してたら雪奈がもう一緒にいたくないと思うのも当たり前だ。

それで(原作の)俺が拗らせるとか意味が分からない。


そんな悪夢を見て学校に1人で通うある日、思い切ってNINEで雪奈に連絡をした。

「よし、心を落ち着けて…送信!」

【テストが終わった後話したいことがある】

テストが終わった翌日、あの作戦を実行することにした。原作なら別れを切り出されるのはテストの2週間後のはず。


それより前で自分から振る。

最後まで雪奈の前ではクズを演じて振ろう。

考えたが今まで冷たい態度をとったのに円満に別れてくれはきつそうだ。悪役は悪役らしく振りに行こう。


【分かった。ちょうど私も話したいことがあった】

送信して3分後すぐに返ってきた。

やっぱりできる人の連絡は早い。


その後も図書館で順調にテスト勉強していく。

そしてテストは図書館のおかげか、手応えはあった。


「明日か…」

いよいよ明日で俺と雪奈の関係も終わる。

そして主人公のハーレムも一歩進む。

「別れたく…ないな」

今までの雪奈との写真をみながら夜を過ごした。ずっと泣きながら、過去の自分を心の中でボロクソに言って気づいたら朝が来ていた。


「行きたくない…」

この日は両親にも顔色が悪いから流石に休めと言われたが、どうしても行きたいと言って登校した。

学校に着く頃には無理矢理自分を切り替えた。

雪奈に放課後、ちゃんと話したいから家に来て欲しいと言われた。


当然授業は頭に入らなかったけどテストの点数がちょっと良かったのは嬉しかった。


ついに放課後。

「海人」

雪奈が迎えに来てくれた。

「車用意してあるから行きましょう」

「うん」


久しぶりの雪奈もやっぱり綺麗だった。

それと同時に俺とは釣り合わない存在だと再び感じた。


久しぶりに見る爺さんの車に乗り、外をぼーっと眺めていると家に着いた。

「爺、海人と大事な話をするから誰もいれないでね」

「承知しました」


心臓が跳ね上がる。嫌われる勇気はもう昨日死ぬほど叩き込んだ。

「そこのソファに座って。今ハーブティー入れるわ」

無言を貫く俺に優しくハーブティーを置いてくれた。それを一気に飲む。雪奈が入れてくれる物は何でも美味しく感じる。


「それで話って?」

ついにこの時が来た。


「俺と別れて欲しい」

「理由は?」

至って平然と雪奈はハーブティーを飲む。

「俺は今まで雪奈のふさわしい人になれるように努力した…!でも雪奈は対等に見てくれない。いつも上から目線。それに恋人らしいこと何一つできてない!誘っても断ってくるし…雪奈のこと嫌いだから」


最後の言葉以外、全部原作で雪奈が振った時に海人が言い訳した言葉だ。

言い過ぎた気もするけど悪役っぽく演じれたはず。


「隣座ってもいい?」

「ああ」

ファンが聞けば全員ブチギレるくらいひどいことを言ったんだ。ビンタくらい覚悟して…


雪奈の手が近づいた時、一瞬目を瞑ったが痛みを感じなかった。

「手、少し震えてるよ?」

手を握られた。

「え、何で…」

「分かるよ。嘘だってこと。」

「違う!嘘じゃない!本当に別れたいと思ってる!」

「本当に嫌いになっちゃった?」

「そ、それは…」

「何年一緒にいると思ってるの?本当のこと聞かせてよ」

雪奈はそう言いながら両手を握っている。


視界が何故か滲んだ。

「俺…雪奈と本当は別れたくない。どこにも行って欲しくない…!」

「大丈夫。大丈夫だから。私は海人のこと好きだから。別れたりなんかしないよ」

「ごめん…!今まで本当にごめん!冷たい態度取って、気づいたらもう遅くて、どうしたらいいか分かんなくて…だからあんなこと言って別れようとして…」

泣いている自分を雪奈はずっと抱きしめて背中をさすってくれた。







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