山登りの最後尾

stdn0316

第1話

 ある高校の宿泊研修での話。

 その高校では、2年生の夏に北関東の湿地帯で4泊5日の宿泊研修があるという。


 その研修の行程に、山登りがある。

 標高はそれほど高くないが湿地帯の山であるため、整備された木道であっても非常に滑りやすい。


 いくつかの班に分かれた生徒の集団が一列になって木道を歩き、最後尾を務める班の前に山岳部の顧問の教員がついた。


 何人か転倒した生徒がいたものの、大きな怪我もなく無事に山登りの行程を終え、宿についた。顧問が最後尾の班を労って声をかけた。


「お疲れさま、一番後ろを務めてくれてありがとう。元気なさそうだったけど体調は平気か?今日はゆっくり休めよ」


 生徒たちは戸惑ったような顔をした。

「俺たち後ろじゃないっすよ」

「え?」


 話を聞くと当該生徒たちも自分の班が最後尾と聞かされていたが、実際に歩き始めると、自分たちの後ろにぴったりとつけている3人組の班がいたという。


 他クラスの班で最後尾の班がいたのかと思い、振り返って声をかけるが返事をしなかった。

 低い声で何事かをぶつぶつと呟いており、怖くなってそれ以上後ろを振り向けなかったという。


 教員は山登りの最中、たびたび後ろを振り返って班の姿を確認したが、その背後に何か見えることはなかった。


 直ちに点呼を取り生徒全員の無事を確認したが、はぐれた生徒も途中でふざけて一番後ろに回った生徒もいなかった。


 怯えと疲れが混ざったような表情で一人が言った。


「先生、昼間けっこう晴れてましたよね。でもあの3人、顔だけ異様に暗くて全然見えなかったんですよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山登りの最後尾 stdn0316 @stdn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ