第36話 心の変化

 これからどうしよう。

 そもそもあれからどうなったんだ? 涼樹は無事らしいけど、奴を殺したのか? 話さないといけない事もある。その後は……あいつに任せよう。


「助かった撫照。だいぶ落ち着いた」

「その様ですね。明らかに表情が柔らかくなりました」

「そ、そうか?」


 椅子に戻った撫照がそう言うけど、そんなに変わったのか? 自覚はあまりないな。


「ええ。それから、何かを決心したようにも見えます。私の手助けは必要ですか?」

「いや、平気。これはオレが自分でやるべき事だからな」

「そうですか。それなら私はいつも通りに過ごしていますね。明日の夕飯は……あっ、そういえばお腹は空いていますか? 丸々一日寝ていましたし、軽いものが良いですよね」


 サラッと言ってるけど、オレって丸々一日寝てたのか。それほど精神に負荷が掛かっていたのか。……タイミングとか、色々と最悪だったもんな。

 何より、まさかオレの中で涼樹の存在がここまで大きくなっているとは想定外だ。


 本当に驚きだ。二ヶ月前のオレに言っても信じないだろうな。……いや、そうでもないか?

 そもそもオレがこのまで丸くなったのは、後輩二人との一年だろうから。


「タルト? どうかしましたか?」

「いや、人って変わるもんだなって」

「それは自身の事ですか?」

「そっ、少なくとも去年とちょい前のオレだったらこんな事にはならなかった。何も思わず、何も考えず。淡々とやる事をやったはずだ。それが今じゃこんなに揺らいでる。弱くなったもんだ」


 ピーチと共に旅をしていた頃のオレと戦えば、まず勝てないだろう。魔装具がある分、武装では強化されているけど、精神が弱くなった。心の弱体化は戦力に深く関わる。


 ……うん、致命的だ。


「過去の話なんて聞くつもりありませんよ?」

「あ、やべ。悪い悪い。するつもりないない」

「話を戻しますけど、お腹は空いてますか?」

「ああ、おかゆ作ってもらって良いか?」


 本音を言うなら甘いものが食べたい。チョコタルトとか食べたい。


「わかりました。病み上がりなんですから大人しくしていて下さいね」

「りょーかい、ママ」

「……はあー、良い子にしているんですよ」

「はーい」


 呆れ顔の撫照も可愛いな。

 部屋から彼女が立ち去り、一人になった。


「……はあー。面倒な事になったなー」


 突然現れた赤髪の女性。十中八九オレの姉だ。

 だけどオレは今まで姉がいるだなんて話を母様から聞いた事がない。父様からもそんな話が出る事はなかった。

 それなら姉じゃなくて親戚か何かか? 母様に姉妹がいるって話は聞いた事ないけど、その方が可能性が高いか。


 今思えばオレって父様と母様の事、何も知らなかったんだな。もう会う事はできないけど、今からでも少しは知る事が出来るのだろうか。


「あーやだやだ。オレらしくない」


 一日眠っていたから外は暗い。……あれ、オレって今日寝れるのか? 涼樹と話をするのは明日。学校で良いか。夜に男子寮に行くのは流石にだし。


「タルト。出来ましたよ」

「いつもありがとな」

「……今日のタルトは何だか気持ち悪いですね」

「おいこらっ、なんでだよ!」

「ふふっ」


 おかゆを持って来てくれた撫照にお礼を言っただけだぞ。酷くね?


 明日。

 もしかするとこの平穏な日常が終わってしまうかもしれない。


(女王様、裏切りはしません。だけど、どうかお許し下さい。これが私の償いなんです)


 部屋に一人。手を合わせて祈りを捧げる。

 命を救ってもらった。力を与えてもらった。

 それなりにオレは役にたったはずだ。だからどうか。


「お許し下さい」


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