二度目の魔導学園記 ~復讐の先に、君がいる~
のいのい
1章
プロローグ
血の臭いが、鼻を突いた。
焼け焦げた床、砕け散った瓦礫。かつて学園だった場所は、今や瓦礫と炎の地獄だ。
俺――レオン・アークライトは、折れかけた杖を握りしめながら荒れ果てた大広間に立ち尽くしている。
周囲には倒れた仲間たちが散乱していて、まだ息をしている者がいるのかどうかも分からない。
そして視線の先にあるのは、血の海に沈むエリーナの姿。
幼馴染であり、誰より大切に思っていた存在。
だが、俺の声はもう彼女に届かない。
「……くそっ」
膝が震え、悔しさで胸が裂けそうだ。
貴族派の陰謀、そしてダグラスという教師の暗躍――そのすべてに飲み込まれて、俺は何ひとつ守れなかった。
静かに足音が近づいてくる。
そこにいたのは、グレン・ディアハート。
かつては学園で“貴族の頂点”を気取っていた男。その背後には、ほくそ笑むダグラスの姿が見える。
「はは、哀れだなレオン。平民の分際で俺様の支配に逆らおうとした結果がこれか?」
グレンの嘲笑が、どこか遠くから響いているように聞こえる。
全身が痛む。既に魔力はほとんど残っていない。
最愛のエリーナを救えなかった挫折と、激しい怒りが入り混じり、頭の中が混沌としていた。
「……ダグラス……どうして……こんな……」
口から血を吐きながら、倒れかけた体を何とか持ちこたえる。
ダグラス・スレイター――この学園の教師でありながら、裏では魔王封印を解き放つ研究を進めていた張本人。
奴の狡猾な計略に俺は完膚なきまでに敗れ、仲間も、エリーナも、すべてを失った。
「フフ、どうして……ですか? 私の探究のためですよ、レオン。貴方は“実験材料”として、もう十分に役に立ちました」
冷え切った声とともに、ダグラスの手に闇色の魔力が渦巻く。
これ以上、何もできない。
次の一撃で、本当に終わりだ――。
ふと、胸ポケットに重みを感じた。
祖父の形見として常に持ち歩いていた懐中時計〈時の歯車〉。
祖父はこれを「いざという時に使え」と言い残していたが、結局それが何なのか、俺は大して調べもせずにいた。
「……すまない、エリーナ……」
最後の力を振り絞り、彼女の名を呟く。
俺は何も守れなかった。
そう思った瞬間――。
――カチリ、と。
小さな歯車が噛み合う音がした。
胸ポケットの懐中時計が、薄紫の光を帯びてゆっくりと輝き始めたのだ。
「な……何だ……?」
グレンもダグラスも、その不気味な光景に一瞬動きを止める。
まるで、止まっていた時が再び動き出すかのように、時計の針が高速で逆回転を始める。
――ズンッ。
体の奥に衝撃が走り、視界が真っ暗になった。
けれど、その暗闇の中で奇妙な安堵を感じる。
――今度こそ……絶対に守る……!
――裏切り者には……復讐を……!
俺の意識はそこで途切れた。
懐中時計〈時の歯車〉が放つ光が、全てを包み込んでゆく。
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