うつくしい標本
「先生はなんで理科の先生になったの?」
放課後。生物部に所属している生徒がふと呟いた。顧問兼、理科の教諭である湯谷は窓の外を眺めつつ、そうだなあと差し込む夕日に目を細めた。
思えば、あの日も今日みたいな燃えるような夕刻だった。
珍しく、体を拭いて欲しいと彼女は言ったのだ。どれだけ辛い療養中でも頼らなかった彼女の願い。
肉は削げ落ちて、骨の上に皮が載っているだけの薄い体を濡らしたガーゼで拭いたときを思い出す。背骨が浮き出ても、彼女の背はとても美しかった。
『最後のお願いきいてくれる?』
久方ぶりに笑った彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。きっとこの先も、誰にも言うことのない約束だ。
湯谷は夕日に照らされた、人体模型のガラスケースを指先でなぞった。
真白の標本はまるでほんとうに存在していたかのような生々しさと美しさを放っている。
「好きなひとの側にいるためかな」
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