第2話 憧憬

 ところどころ木漏こもれ日が差し込んでいる緑に囲まれた小さな公園。シーソー、ジャングルジムにブランコといった特に変わり物の遊具も無い、ごくありふれた公園だ。

 海来みらい達の通う小学校や、近くの小中学校も夏休みに突入しているためか、公園で遊ぶ子供たちも少なくない。


 敷地内の隅にある大きな木の下で、ピンク色の子供用自転車に軽く寄りかかったまま千歳ちとせは待っていた。特に何事も無かったようで安心した。


「はい、飲み物買ってきたよ」


 海来みらい千歳ちとせの横顔に話しかけた。けれど反応はなく、こちらを振り向く素振りもない。魂の抜けた人形の様に一点を見つめて固まってしまっている。心なしか、彼女の横顔から哀愁あいしゅうが漂っているような気さえした。


 何をそんなに夢中になっているのだろうかと思い、海来みらい千歳ちとせの視線の先を追った。


 それを視界に捉えた時、海来みらいは思わず、あっと声を上げた。


 千歳ちとせの視線の先には、ブランコで遊ぶ幼い女の子と成人男性の姿がった。おそらく2人は親子で、せがまれた父親が娘の背中を押してブランコを漕いであげている。


 きっと千歳ちとせは、あの親子に自分と父親の姿を重ねて想像しているに違いない。存在しない、もう二度と手に入ることのない憧憬しょうけいを。

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