転生悪役貴族の華麗なるラスボス譚~闇堕ち不可避の悪役貴族に転生した僕はいっそ全てを振り切って悪役となり、ゲームのラスボスも、裏ボスもまとめて配下として主人公に勝っていこうと思います!~
リヒト
第一章
悪役貴族
「ずいぶんとやるせないゲームだな」
いつも通り高校での授業を終え、最近始めたゲーム『戦神』をプライする僕はため息交じりに言葉を貰す。
スマホに表示されているゲーム画面では今まさに、ストーリーのラスト、佳境に入っているようなところだった。
「戦争のやるせなさをこうも丁寧に描写するかねぇ?」
このゲームの構図は実にシンプル。
人類と魔族が長きにわたって戦争を繰り広げる世界で故郷を滅ぼされた男、ロイド・レイザークが魔族を倒していくストーリーになっている。
そんなゲームの何がやるせないかと言えば、この戦いにあるのは正義や悪ではなく、ただただ純粋な戦争。善も悪もない醜悪な戦争模様があるだけであるところだ。
人間も魔族も、両者ともに到底現代の倫理観で言えば受け付けないことを行っている。
時には人の国同士で戦争を行っているときもあるし、逆に魔族の国同士で戦争を行っているときだってあった。
勧善懲悪などなく、ストーリーを終えそうになっている今も、スッキリ出来た瞬間なんてほとんどなかった。
悪辣な人体実験を行っていた研究者たちを倒すことは、自分たちの立場もあって出来なかった。必要に命じられ、民間人への攻撃を支援することだってあった。
正義感の強い主人公がどうしようもない現実を前に涙を流し、その上で、人類の勝利の為に戦い続ける。これがこのゲームだった。
『……なん、で』
特にひどいのがラスボスである少女周りの話だ。
ただ強かったから。
その理由だけで人類に敗走する魔族たちの頂点に祀り上げられただけでこれまでの戦乱にほとんど干渉せず、人を殺したことさえないような少女のことを、主人公は人類の勝利の為に殺す他なかった。
「おぉん……」
何もしていない少女が殺され、ただ涙を流す。
その光景を前に主人公が苦虫を嚙み潰したかのような様子を映してのエンドロールはもうやるせないとしか言えない。
「うーん……隠しエンドがないかどうかも後で探すか」
本当にひっどい読了感だ。
もう何とも言えない気分にしかならない……ラスくらいはちょっとスカっとするような展開あるかな?と期待した僕の心を返して欲しい。
「……とりま寝るか」
なんてことをやっている間にもう時刻は夜になっている。
眠気も感じてきた僕はゲームを終わらせ、床につくのだった。
■■■■■
僕はゲームを終え、床についた───その、はずであった。
だが、そんな僕が次に目を覚ました時、自分の視界に飛び込んできたのは知らない天井だった。
その事実に困惑しながらも素早く辺りを見渡し、自分が寝かされていた見知らぬベッド。見知らぬ部屋の中に姿見があったことに気づき、すぐさまそちらへと駆け寄った。
「なんで……こうなるんだっ」
そして、その姿身に映った僕の姿。
それを見て僕はうめき声をあげる。
姿鏡に映るのは一人の少年だ。
白髪に真っ赤な両目を持った白い肌の身麗しい少年。その美しい相貌には薔薇のような青い痣が刻み込まれている───間違いなく、元の僕の姿ではない。こんなファンタジー世界の住人らしさ全開の見た目じゃない。
「あぁ~、もうっ!」
色々と言いたいことがある。
ただ、その上で、だ。自分の身に何が起きたのか。それを推察することはできる。
ラノベ、漫画、ゲーム、アニメ。多くのサブカルチャーに触れている僕が想定するに、これは異世界転生ってやつで間違いないだろう。
「はぁー」
いや、そもそもとしてこんな推察とも言えないような現状整理をするまでもなく、鏡に映る少年の姿だけで自分がどうなかったのかを正確に知ることが出来る。
姿見に映る少年。この子のことを僕は知っていた。
カイザー・ラインハルト。
自分が床へとつく前にやっていたゲーム『戦神』に出てくる悪役の一人。人類の大国における名家と言える貴族でありながら魔族側へと寝返った悪役貴族であった。
「ちっ」
ゲームのキャラへの転生。それも、悪役貴族への転生だ。
何故、こんなことが起きたのかはわからない。それでも、今の僕は事実として、悪役へと貴族に転生してしまったのだろう。
自分が死んだ理由も、今世で生きてきたであろう十年ばかりの年月も知らないけどねっ。これなら、憑依の方が近いか?いや、今はそんなことどうでもいい。
悪役貴族に転生した。そんな感じの物語はよく見ている。
その上で、対処の仕方はそれぞれ。
「……こいつ以外なら、こいつ以外なら誰でも良かったのにっ」
ただ、どれであっても共通しているのは原作通りの闇堕ちを避け、主人公とは敵対せずにそれぞれの道で死なないように生きていること。
いや、別に闇堕ちフラグを避けずにガッツリ主人公と戦っているような作品もきっとあるだろうが、少なくとも僕は読んでいない。故に、そこもどうでもいい。
「……クソ」
望むのであれば、僕の知る物語のように自分の闇堕ちフラグを折っていきたい。その上で、善なることをやるか……悪なることをやるかは未来の話で今はわからないけど……。
ただ、これは、悲しい仮定の話だ。
「闇堕ちは、避けられない」
僕はゲーム本編のように、闇堕ちするしかない。
それ以外のルートが用意されていない……ゲームにおけるカイザー・ラインハルトは、今の僕は致死率が百パーセントのどうしようもない病気に罹っている。そして、これを治せるのは魔族だけだ。
「死んで、たまるかよっ」
第一の分岐点。
己が魔族へと寝返り、ゲームにおける悪役となる。ここは避けようがない。
ここを避けたら、僕は病で死ぬ……っ。
「死んで、たまるかよ───っ!」
なら、僕がやることは簡単だ。
ゲーム通りに闇堕ちし、悪役貴族となった上で───主人公に、力で勝つしかない。闇堕ちして悪役貴族になる。ここまでは既定路線であっても、僕という存在がその後にどうやってゲームの主人公と戦うか。
そこは、そこであれば、僕の意思で決められるはずだ。
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