第6話「強さは誰のために」

 「お父さん⋯⋯⋯死んじゃった⋯⋯⋯」

深夜、遥からの突然の電話だった。

返す言葉もないまま、怜の時間は凍りついた。



 彼女の父親とは、何度か挨拶をしたことがあった。

 大企業の役員だった。

 4人姉妹の優しいお父さんだった。

 ついこの間まで、元気に笑っていたはずなのに⋯⋯


 癌だった。

 昨日まで、明るく振る舞っていた彼女を思い出した。

 遥は怜に、そんな素振りを一度も見せなかったのに。


 凍りついた意識の中で、怜は必死で考えた。

 「彼女は何がしてほしいのだろう?」

 「今、自分に何ができるのだろう?」


 考えても、考えても、何も浮かんでこない。

 怜は自分の無力さを、これほど悔いたことはなかった。

 「⋯⋯⋯強くなりたい」


 誰かの為に、大切な人のために、何もかもを抱きしめられるほど、強くなりたい。

 怜は、初めて心の底からそう願った。



 

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