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 ハラは赤い死神と空中で弾丸を撃ち合いながらすれ違う。以前戦ったときよりもハラの飛行機、白狐はカスタムされている。ハラはこの撃ち合いで赤い死神を撃墜する自信があった。しかし結果的には落とすことができなかった。相手の飛行機も以前よりも強くなってる。

 ハラは飛行機を旋回させる。

 こちらには僚機が二機ついてくれている。相手には僚機はいない。いや、いるのか? 隠れてる? どこに? ハラは感覚を研ぎ澄ます。いた。太陽の近く。ハラは下方向にいる赤い死神に向かって突っ込んでいく。

 しかしそのとき横からもう一機。敵機が単独でハラの飛行機に向かってくる。迷いがない。エース機だ。ちぃ。ハラは舌打ちする。

 戦争に勝つために必要なことは個人の飛行機乗りとしての腕ではない。集団としての大きな戦略だよ。どんなに凄腕の飛行機乗りでも個人には限界がある。一機の力で、エースパイロットの一人の力だけでは戦場の優劣を覆すことはできない。戦争はそんなに甘いものではない。

 ハラは戦争に行く前に、最後に会ったときの先生の言葉を思い出す。そのときの先生はいつもの優しい年老いたおじいちゃん先生ではなくて、とても厳しい顔をした、いつもとは違う先生だった。

 死んではだめだよ。これからも、君は生きなくてはいけない。

 私はもう人を殺しているのに、ですか?

 いっぱい、いっぱい。

 私は血で汚れているのに。

 今も、人を殺そうとしているのに、それでも私は。

 生きていてもいいんですか?

 大きな風の音が戻って、同じように、ハラの意識が飛行機の中に戻ってくる。

 やってやる。

 ハラは横から突っ込んできた敵機エース機に向かって飛行機を旋回させる。その動きの速さに敵機が動揺しているのがわかった。ハラの中でなにかが弾けようとしている。

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