嵐の日に新型機はハラの基地にやってきた。嵐で到着が二日も遅れた。そのせいでハラは一度、警報が鳴ったときに出撃することができなかった。仲間が二人やられた。自分のせいではないとわかっていても、出撃できなかったことをハラは後悔した。

 新型機は真っ白な飛行機だった。レシプロ機。スマートな形状の飛行機だ。飛行機の大きさも小さい。どことなくこの間戦闘になった向こう側の新型に形が似ている。ハラはゆっくりと飛行機の周りを歩きながらそんなことを考えている。

「乗ってもいい?」

 ハラがいうと「もちろん」と整備長は言った。

 ハラが新型機のコクピットに乗ってみると、その操作環境はシンプルだった。余計なものはなにもついていない。椅子も座り心地がいい。匂いを嗅いでみるととてもいい革の匂いがした。まだ誰も乗ったことがないコクピットの匂いだ。

「これ、今から飛んでもいいの?」コクピットから顔を出してハラがいう。

「ああ。許可は出てる。でも遠くまではだめだ。基地が見える範囲ならいい」と整備長は言った。

「わかった」

 そう言ってハラが出撃の準備をしているときだった。

 とても大きな音がした。基地の警報が鳴り始めたのだ。

 それからすぐに基地内放送が始まった。

「このまま出る」ハラは言った。

「わかった。無理はするなよ」ハラのことを(止めても無理だと)よくわかっている整備長はそう言ってハラの飛行機からすぐに離れた。

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