第5話 俺、駆けっこする


 あの日以来俺たちは同じ放牧地へ放されるようになった、最初うまくコミュニケーションを取れなかった二頭ともそれなりに友好関係を築けたと思う、一番仲が良いのはマルだ!まあアイツ寝てること多いけど、初めて会った時感じた印象はあっていて寝る子は育つのかマルは俺たちの中で一番大きい。

 他の二頭だがチキン野郎はシロ、夢見がちガールはモモとジイサンが呼んでるらしい、といっても俺たちの名前は今のところ言うなら【母馬の名前】【産まれた西暦】なわけで、これはこの牧場での名前いわば幼名みたいなものだな、幼名ってなんかかっこよくないか?武士っぽい。

 

 さてここでクイズ、広い放牧地で仲良くなった俺たちがすることはなんでしょう?正解は、そう駆けっこ!

 人間だった頃の俺はそこまで運動が好きという感じでもなかったがこれはやはり馬に生まれ変わったからなのか走るのがとてつもなく気持ちいい、特に先頭を突っ切って走るのはとんでもなく気持ちいい、サイコー!って気分になる。


 『ヒャッハー!風になるぜー!』


 『風になるのは私よ!!!』


 『待ってよー!』


 俺を先頭に放牧地を駆けまわる仔馬が三頭、そう三頭、マル?アイツなら母馬の横で寝てるぜ……。


 『待つわけないだろほら走れ走れ!強くなるんだー!』


 『アタシだって!』


 『ひーん!』


 俺たちは大体いつも先頭が俺、その後ろにモモ、最後にシロの順で駆けていることが多い、シロのヤツはあんな鈍くて大丈夫か?と思うので俺は敢えて厳しく接して鍛えることにしている、幼なじみの悲しき現在なんて未来はできる限り避けたいからな。

 マルはどうなんだって?アイツはクソマイペース野郎である、あるのだが。


 『おーいマルそろそろ起きて走ろうぜー』


 『うーん』


 『マールー』

 

 マルの体を頭で押すようにしてゆさゆさ揺さぶるがマルはとてつもなく寝穢い、それでもめげずにゆっさゆっさ、母馬もマルがあまり走らないことには困っているようでこれをしても俺が威嚇されることはないので安心である。

 

 『ううーん……走ったあと一緒に寝てくれる?』


 『お前まだ寝るつもりかよ!仕方ないな、寝るから走ろうぜ』


 『ならいいよう、ハナとお昼寝楽しみー』

 

 走るのではなく寝るのが楽しみ、コイツはもしかして生まれてくる種族は間違えたんじゃないだろうか?多分きっとナマケモノだとかコアラだとかの方が合っていると思う。


 『よっしゃー!モモ、シロ、マルが起きたからいつものやろうぜ!』


 マルを後ろにとっとこ戯れてるモモとシロのもとへと近寄ると俺はそう告げた。

 いつもの、というのが気になることだろう、そう俺はここを競馬場とした!というのはさすがに無理なので疑似的に競馬に則した駆けっこを提案してそれを実施してるのだ。いや、馬が競ってるって意味では立派な競馬だけどな?


 まずスタートは放牧地の端っこでゴール地点の基準は母ちゃんだ、いくら仔馬基準で放牧地が広いと言っても実際のレース場ほどの距離ではないがそもそも俺たちは仔馬なのでそこはいい、大事なのは一斉にスタート、真っ直ぐ走る、大きくUターン、そして母ちゃんという基準のナニかの横がゴールである、この四点だ!


 『母ちゃーん!今日も頼んだー!』


 『はーい』


 俺たちは連れ立って放牧地の端っこへ行く、並び順は毎日入れ替え制で隣も変わるように適当にしている。

 仔馬四頭が揃ったところで他の母馬たちにも見守られながら母ちゃんの高らかなヒヒーンという嘶きと共にスタート。


 ハナを切るのはもちろん俺、ハナだけにな!ガハハ!半馬身くらいの差でモモ、それより一馬身ほど離れてシロ、それにぴったり引っ付くようにマル、俺たちの走り始めはだいたいいつもこんな感じである。

 馬群というには物足りないがそれでも他の馬と一緒に走るのを含め俺の仔馬たちへの英才教育は中々のものではないだろうか?自画自賛しながら今日も放牧地を駆ける俺、もちろん手抜きはしないいつだって真剣勝負だ。

 真っ直ぐ走って柵にぶつかる前に曲がり始める、仔馬基準で大きくUターン、そして最後の直線に入る。


 『うおおおお!俺がいちばーん!』

 

 俺はプリティーでありながらやはり遺伝なのか競争能力も高いのである、ズルズル下がっていくモモや根本的にスピードが足りていないシロにぐんぐんと差をつけながら母ちゃんの横、ゴール目指して脚をフル回転させた、だがその時である。


 『つーかまえたー』


 ホラーだ、ホラーである、Uターンを終えた時点では確かにシロの横にいたはずなのだ、なのに風を切る音を蹄が地を蹴り上げる音を響かせゴール前で俺に並ぶマル。

 マルは楽しそうに言ったあと俺を抜き去り見事に一番をいつものようにかっさらって行った、そうこの勝負をする時いつも一番はマルなんだ。


 『チックショオオオオまた負けたああああああ!!!』


 『アタシも、またあああ!』


 『ヒー!ヒー!』


 悔しさのあまり転げまわる俺とモモ、声も出せなくなっているシロ、その横であくびをしているマル。

 そう、コイツはクソマイペース野郎だが俺たちの中で一番速い、世に言うキレる脚を持っているのだステータスにキレという項目があったらニジュウマルがついてるに違いない、そう長くない直線でも一気にギアを上げて抜き去る、後方直線一気とかなんだそれカッコイイ!俺だってそれがよかった!先頭気持ちいいけど!


 『なんでだー!母ちゃん俺の父ちゃんキレッキレな脚とか持ってねぇのー!?』


 『あらあら困ったかわいいベイビーだこと、父……どんなだったかしら』


 『うわーん!知りたくなかった繫殖牝馬の現実リアルー!』

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