第4話 俺、他の仔馬と出会う


 『オイオイジイサンボケたのか?そっちじゃないだろ』


 「よーしよしこっち来い、こっちな」


 『えー、本当に?ボケじゃなくー?』


 寝床、もとい馬房から母ちゃんと一緒に連れられて行ったのは今までとは違う放牧地だった、ぱっと見で以前より大きな囲い、そして一番の違いは既に親子と思われる他の馬たちがいることだ。


 『お、ついに馬付き合いデビュー?ナメられないようにしないとなー』


 『私のかわいいベイビーは血気盛んねぇ』


 「あんま興奮するなよー、ほら行ってこい」


 柵が開けられ俺と母ちゃんは新たな大地に降り立った、ちょっと格好良く言ってみたかっただけで深い意味はない。

 そこには俺と同じように母馬の傍にいる仔馬が三頭ほど、周りを窺がうようにしてるヤツ、なにか虫を追いかけているのか飛び跳ねてるヤツ、それからマイペースに寝転がっているヤツ、個性はそれぞれ、俺?鼻息フスンフスンさせながら品定め中よ、こういうのは最初が肝心だろ?


 『母ちゃん俺行くぜ!』


 『あんまり迷惑かけちゃダメよ』


 俺は手始めに周りを窺がってるヤツから挨拶することにした、アイツはまず間違いなくチキン野郎だ、馬の癖にチキンここは俺が一発ガツンとキメてやろう。


 『ヘイヘイ!俺今日からここに連れて来られたんだけどお前は?』


 『え、あの……その』


 『なに?緊張しちゃってる感じ?こんなプリティーな俺が話しかけてんだからそんな緊張すんなって』


 『あの僕は……』


 『なんだよー嬉しいだろ?こんなプリティーな幼なじみが出来ちゃったんだぜお前、これを機に俺の舎弟ヌァア!』


 チキン野郎に舐め腐った態度で声を掛けていたら少し遠巻きにしていたチキン野郎の母馬が脚を振り上げ威嚇してきた、マジビビった、チビるかと思った、嘘ですちょっとチビりました。


 『うちの子に変な絡み方しないでくれる?』


 『へへ、いやちょっと仲良くしたかっただけで、サァセンしたー!』


 ヒンヒン言いながら戦略的撤退をする俺、母ちゃんはちょっと呆れた様子だ、かわいいベイビーが威嚇されたんだからあの母馬に喧嘩を売ってもよいのではないだろうか?俺の態度が悪い?それは、そう。

 いくら仔馬が俺より格下に見えてもその背後には母馬がいるのだ、倍以上の体を持った母馬には当然勝てるはずもなくまだまだ未熟な俺なんてペキョッとやられて終わりだろう、母馬を刺激するのはよくない、学んだ。母馬は刺激せず、でも仔馬にはナメられず、これが大切だ。


 『母ちゃん俺はめげないぜ!』


 威嚇母にごめんなさいねーなどと話しかけている母ちゃんに告げてから次のターゲットもといオトモダチ候補へと話しかけに行く、次は飛び跳ねてるヤツだ、ちょっとアホっぽそう。

 ところで母ちゃんあなたのかわいいベイビーが一頭で行っちゃいますよ?いいんですか?後方待機しとくのが母ポジションなのでは?


 チラチラと母ちゃんを見ながら飛び跳ねてる仔馬の方へと近付いて行く俺、先ほどの反省をしっかり生かしてまず初っ端からの押せ押せは控えておこう、友好的関係求む。


 『なあなあさっきからなんで飛び跳ねてるんだ?』


 『なあにアンタ、アタシはさっきからひらひらしてるヤツ追いかけるので忙しいの!あっち行って!』


 『アッ、サーセン』


 ちょっとアホっぽそうと思ったが訂正する、この仔馬はちょっと夢見がちガールだったようだ、なぜかって?俺の目にはひらひらしているナニかなんて見えないのだ、しかし夢見がちガールには見えてそれは追い掛けぴょんぴょんと飛び跳ねている、つまりそういうことだ。

 またしても戦略的撤退をする俺、世の中には知らなくていいことも理解しなくてもいいこともあると若者には声を大にして言いたい。


 ここまで良いところなしの俺、残るは一頭寝転がってる仔馬である。

 寝ているとしたらそれを起こすと母馬がキレてしまうかもしれない、俺はなるべく静かにパッパカ寝転んでいる仔馬に近付いて行った。


 『おーい、起きてるかー?』


 『んん-?なあにー』


 『お、起きてたか!俺今日からここ来たんだけどお前は?』


 『んー、んむー!』


 声を掛けると起きていたらしくむっくりと起き上がる仔馬、そしてそのまま返事をするでもなくストレッチを始めた。お前は猫か!と言いたくなるポーズだがツッコミはしない、なぜならこの仔馬の母馬がこっちを見ている。


 『なあ、聞いてる?』


 『うーん、僕も今日からここに来たんだ前のところより草が生えててきもちーよねー』


 『お、そうなのか!俺ハナって言うんだけどお前名前は?』


 『ハナ?僕の名前、なんだろう』


 『え!?名前ないのか……?』


 衝撃的事実が発覚してしまったかもしれない、俺には名前があるが他の仔馬にはもしかしたらないのか、これはきっと俺のあまりのプリティーさにジイサンもついつい贔屓してしまって可愛がってしまうというこの齢にして罪作りなプリティー仔馬である俺の……。


 『あのジイサンがマルって呼んでるからそれが坊やの名前よ』


 『そうなんだー』


 違った、ちょっとこの仔馬がぽやぽや野郎なだけでジイサンは分け隔てなく名前を付けているらしい。


 『マル、あー、お前の額か!俺と一緒だな』


 『一緒、お揃い?嬉しいねー』


 『へへへ、なあなあお前俺と友達になろうぜ!』


 『友達、友達ってなにするの?』


 『そりゃ一緒に走ったり』


 『走るのかー、寝るのは?』


 『寝るのだってもちろんする!』


 『ならなるー』


 よっしゃ!友達GETだぜ!ここに来てようやく成果を得た俺、少しどころかだいぶマイペースそうなところが見えたマルだが大らかってことなら母馬を刺激することも少ないかもしれないし初めての馬友達としては上々じゃないだろうか。

 俺は意気揚々と母ちゃんに報告しに駆けて行く、広い放牧地きっもちー!


 『母ちゃん俺友達できたー!あそこの黒いの!』


 『あらー、良かったわねぇ』


 喜び跳ねる俺を好きにさせる母ちゃん、ところでアイツ俺と同じくらいの月齢だよな?……デカくね?

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