第5話 マスカレイド・ガール
《格納庫》
「ほら、起きた」
「や、保田君……あの流れでよく他の女の子にキスできる……」
『あうあうあう……』
「女の子って言っても、飛行機じゃないか?」
『……キスされた……キスされた……』
「……そもそも女の子っぽいだけで」
「まあ、そうなんでしょうけど」
それでもなんか慣れてない?とまだラブコメ脳から切り替わらない高橋は思う。
「それに、鼻だし」
『鼻に……鼻に……』
「鼻?」
「保田さん、保田さん。鼻キスは、何か相手を守りたいという心理、だそうですよ」
地上から保田へ、要らん応援が飛ぶ。
田村は調べたネタを無駄にするような女ではないのだ。
『え!保田さん、そうなんですか?私を守りたい!?』
「田村~お前ね、話をややこしくするんじゃないよ。それにアイリス、おまえを守りたいなんて当たり前だろう?」
「保田君!?」
『保田さん……』
「俺は、俺達は管制官なんだ!飛行機は守って当然だ」
「……そうよね!」
『がーん』
「森沢君、あんな人たちは相手しないでさ、アイリスを調べるよ、早く!」
「田村さんは相変わらず酷いな~」
田村と森沢は別の高所作業車でアイリスの機体を調べ回る。
「鼻なら、いいのかな?なんか、ほっぺとか鼻とか、親愛の何とかみたいな。飛行機解釈なワケだし」
まだこだわる高橋のごにょごにょは保田に新たな疑問を提示した。
「そういえば、口はどこだろう?」
人で言えば機首は目であり鼻であり。耳に当たるアンテナは頭のてっぺんか。
「……給油口じゃないかしら?」
確かそうだ。保田はアイリスの窓を田村とイチャツきながら覗き込んでいる森沢に向けて叫ぶ?
「森沢~。給油口って、翼のトコだったよな」
「右翼のトコですね」
「サンキュー」
「口は右腕だ。たぶん肘とかその辺」
保田と高橋は今までに得た情報で総合的に想像してみる。人間のパーツで再現するとおかしいことになる。
「あまり、お会いしたくはないタイプね」
「高橋さん、どうしてくれんだよ……。アイリスと人外が結びついちまった」
「保田君こそ……私、明日からアイリスの管制を笑わないでする自信ない」
仲良く肩を震わせる二人。
「おかしいな。目覚めたのに中は客室のままだよ」
二人はてっきり頭パーツとか腿パーツとかが詰まっている様子が観察できると思っていたのだ。
「……つまりまだ自分は飛行機のつもりなんだ」
「アイリスが変形さえしなければ、このままでも運用できるんじゃない?」
「本人は飛びたいだけらしいけど、自分でコントロールできるんだろうか」
『……いですか~!』
アイリスの叫び声が聞こえた。
「バカップルがアイリス怒らせた」
その時、不思議なことが起こった。
高所作業車のステージとアイリスとの間が開いていく。
「空間湾曲!?違う、これは!」
「田村さん!アイリスの室内が!」
『だ、誰が妖怪ですか~!』
アイリスは怒った。
自分は可愛い飛行機少女なのに!
一番笑われたくない高橋ちゃんと別に気にもならない保田さんに笑われた。
こうなったら自分の可愛さをアピールすべし。
「と……
アイリスの全長が半分ほどに縮むと、機体は機首が上を向くように浮かび上がる。
phase1:着陸脚が収納され、浮かんでいる機体は機首を上に立ち上がる。
phase2:尾翼ブロックが機体下面主翼の付け根まで移動。
phase3:機体後部がロール軸で半回転。機体後端部を軸に客室部分が開いていき、脚部となる。
腰部・股関節・大腿部・膝・下肢。
phase4:機首が二つに割れて肩の位置へ。中から折り畳まれていた下腕部が伸展する。
phase6:主翼が小振りになり、後退翼のように背中でまとまる。
phase7:各部が適当に丸みを帯びると腰回りに半透明のスカート状の物が巻き付く。
phase8:必要に応じて名乗りを上げて良い。
完成。三秒は欲しい。
パチパチと四人の拍手。
『どーですかっ。これでもまだ妖怪っぽいですか!』
「「デカい……」」
不思議パワーで全長が半分くらいに縮んではいるが、まだまだ二十メートルの巨人だ。
保田達の高所作業車では足の付け根にすら届かない。
『今度は……そんな仕方のないことを!』
「だって、ここからじゃ顔見えないもん。……おっぱいで」
「だな。なんか威圧のある構造物にしか見えない。……おっぱいで」
『二人して、破廉恥ですよ!』
この体だって計測すれば、ちょっと凄いってわかるのに!
『こうなったら、仕方ありません!私の「とっておき」を見せてあげます!
「とっておきと言うわりには、出すの早いな」
「保田君!」
掛け声とともに、アイリスのボディが輝き出す。
一体何が起こるのだろう!
変化はアイリスの全身に起きた。あらゆる箇所が内側に折り畳まれて、どんどん小さくなっていくアイリス。
どんどんどんどん小さくなり、保田より頭一つ分小さくなったところで、光が弾ける。高所作業車のステージ上に、
その姿は、白かった。
青いアイリスのイラストをあしらった真っ白なスニーカー、くるぶし辺りまでだらしなく下がったルーズな靴下。膝上丈の白いスカートはプリーツが多め、伸びる細い脚。お腹が見えないギリギリ丈のこれも真っ白なセーラー服で、襟のラインとタイはコーポレートカラーの朱色である。青い瞳の丸い目と不敵にほほ笑む小さなお口。ショートな髪は高層大気のような不思議な薄い青、そしてひと房のアホ毛。
「アイリス、参上です!」
「「白!」」
「白くないです!」
ムキになって、青い指貫グローブを見せてくるアイリス。
元が白地に赤ラインの機体なので、全体的に白いのは諦めてもらおう。
「でもなんて言うのかしら、これは……」
「ああ、ずいぶん可愛らしくなったもんだ……」
高所作業車を降ろし、アイリスを囲む面々。
「そうでしょう、保田さん。可愛いでしょう?」
アイリスは自慢げに胸を張る。
「これで高橋ちゃんとも、ぴったんこできるわ!」
高橋に駆け寄ろうとするアイリスの脇に背後から保田が手を入れて持ち上げる。
「軽いな……」
「ぎゃああああああああああ」
何十トンもあるはずの身体が、軽く持ち上がる。折り畳まれた分の質量はどこへ?まるで人間のように柔らかい。素材からして変化している。どういう……
「ああああああああああ」
「うるさい……」
「降ろして~やめてぇ~」
「なんだ?飛行機なのに高いところが怖いのか?」
とはいえ、1メートルくらいしか持ち上げられていないのだが。
「ヤメロ~馬鹿保田~さん!」
「保田君!女の子に乱暴はやめなさい!」
「保田さんて、無自覚系なんですか?こんな姿になっちゃったんだから、言われなくても女の子扱いするの普通ですよ?」
高橋と森沢から責められる保田。
「あ、そうか。ごめん、アイリス」
保田は高く掲げていたアイリスをやさしく地面に戻す。
「びっくりして、つい。今後気を付けるよ」
「分かってくれればいいんです……。でももう「高い高い」は無しですよ!」
降ろされたアイリスは顔を真っ赤にしつつも、保田を恨んだりはしていないようだ。
「とりあえず、おやっさんに見てもらおうか」
「ちょっと呼んできます」
走っていく森沢。
どちらがアイリスと手を繋いで連れて行くかで揉める高橋と保田。
子供扱いを嫌いギャーギャー言うアイリス。
そんな様子を眺めていた田村は、誰にも聞こえないような声で、
「ああ……ロボと少女は別なんだ……」
と呟いた。
――――――――――
飛行機変身少女が爆誕した。謎の組織「日本FG研究所」はこうなることも予言していたのか?
そしてまた一つ、アイリスの力を狙う勢力が現れる。
次回、魔法勇者ロボ少女☆アイリス「アグリメント・エレメント」
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