第45話 招かれざる客 2
無法島からアレックスの幼馴染、グエンがやって来る。速達で知らせてきたのだから、間違いないと思う。
なので、ウィンザー通りで食材を買い足すことにした。この通りは商店街だからたくさんの店が並んでいる。特に食材は新鮮だ。
「ガレットのつもりだったけど、人が来るなら、もっとお肉も買っておかないと……」
急ぎ足でお店を見て回る。ガレットの生地は夜のうち作っておいた。それをアレックスと昼間に食べようとしていたの。
店の前で喧嘩が始まっている。ここは穏やかな地区だから珍しいわ。私の横にいたご婦人方が小声で喋りだした。
「ヌーンブリッジの人たちだよ。怖いわぁ……」
「よそに行ってほしいねぇ」
若い男二人が、店になにやら文句を言っている。昼間の商店街は、顔見知りの人たちも多いけど、あの若者二人は地元の子たちには見えなかった。
人だかりもできて通りが狭くなってきた。前から歩いて来た男性と肩がぶつかって、私はメモ用紙を地面に落としてしまった。
「あっ」
手に取る瞬間に、風で紙が持っていかれてしまう。ちょっと待って--
「はい、どうぞぉ」
「あ、ありがとうございます」
メモ紙を素早く掴んでくれた女性。にっこり微笑んでくる。
綺麗……。
しっかり化粧をし、山吹色の髪をショールで隠している。この通りに似合わないくらい美しいわ。垢抜けていて……舞台女優さんかな?
「相変わらず抜けてるね」
小さい声で囁かれる。その声は見た目より低い。どこかで聞いたことある声だわ。
「レベッカ! 俺だよ」
「……え?! ……グエン?」
「その名前は言わないで、フフフ」
女装したグエンが私を抱きしめた。会いたかったわぁと大袈裟に体を揺らしてくる。私はすぐに押し返した。
「離してください! なんて格好してるの!?」
「だって見つかったらまずいからね」
誰よりも目立ってるわよ。
「久しぶりだわ〜カルバーンに来たの。とっても住みやすそう」
「その格好、目立ち過ぎてる。とにかくすぐ部屋に行きましょ!」
「はいはい。お酒とチーズと肉はもう買ったよ」
通りでもめていた若者二人に保安官が話しかけている。自分たちより強そうな人物が現れると、途端におとなしくなるのね。
「あいつら同じ船に乗ってたんよ。そのときから態度悪いなって思ってさ。だから保安官に伝えておいたんだ」
「そうなの?」
「ヌーンブリッジの奴らは恨みがあるからね……」
グエンの冷めた瞳……。背筋がなんだか寒くなった。
「やだなぁ、そんな暗い顔しないでってば、レベッカ。買い物に来ただけだよ。マリアに内緒でプレゼントをしたいから」
私はぎこちなく笑った。
部屋に戻ると、アレックスは椅子に腰かけて待っていた。神妙な顔つき。
「アレックス久しぶりー! って……そうでもないかぁ」
「なにしに来たんだ?」
「なにしにって……速達届いた? 俺の方が早く来ちゃったかな?」
ソファにドサッと座るグエン。
「手紙は届いたわよ。でもマリアが心配するんじゃない?」
「心配? 料理長がいるし、大丈夫だよ」
「でも……大変な時期よね? そうそう。新聞見たわよ! グエン、婚約おめでとう」
「あぁ、ありがとう! マリアは幸せになるべきだからね。本当に俺も嬉しいよ。マリアに伝えるから」
なにこいつ……。なに自分で言ってるの?
幸せになるべきって……あなた、ちゃんと幸せにするつもりある?
いつまでチャラチャラしてるのよ。
「グエン? 婚約指輪でも買いにきたのかしら? ちゃんと指輪のサイズをわかっているの?」
私はとてもキツい言い方をした。
「ん? 知らないよ。なんで俺が指輪買うの?」
なっ! グエンてここまでひどいの?
「なんですって、この甲斐性なし!」
私はグエンの目の前に立って怒りをぶつける。
「おい、レベッカ……なんか勘違いしてないか?」
「レベッカって……まさか結婚相手、俺だと勘違いしてるの? マジで? 嘘でしょ?!」
え? どう言うこと?
「マリアの結婚相手って、誰だと思ってるんだ?」
ええ? 新聞に名前は伏せられていたわ。てっきりグエンかと。だってマリアとすごく仲がいい感じで……グエンはお腹を抱えて笑っている。
「だってマリア……グエンに弱みを握られてるのなんて言うから。てっきり付き合ってるのかなって」
アレックスとグエンは急に真顔になった。
私、変なこと言ったかしら。
「マリアの結婚相手って料理長のペレだよ」
「えええー!!」
「俺と結婚するわけないやん」
アレックスも呆れているけど、なんで教えてくれなかったの? まさか、あの料理長だったとは。
「やっぱり面白いね、レベッカは! 俺みたいな人殺しとなんてさ……誰が結婚するんだよ」
グエンの言い放った言葉で、部屋の空気が一気に気まずくなった。
アレックスは立ち上がり、目の前まで来ると、グエンのワンピースの襟を掴んだ。
「さて……グエン・サンチェス。くだらない服を着替えて、本当のことを言ってもらおうか。そのつもりで待ってた」
「……なにが?」
「無法島での殺人事件だ。前に聞いた話は嘘なんだろ?」
「はい?」
とぼけるグエン。アレックスは詰め寄った。
「俺も聞いたぞ」
「マリアから? まさか。言うわけない」
「そうだな。言うわけがない」
「なっ! アレックス……カマかけたのか?」
「今日、グエンに会って確信した。あの男を殺したのはお前じゃないと。もし言わないなら、オレは保安部隊……デピュテイたちに無法島を捜査してもらう」
「ふざけるなよ」
グエンはアレックスを睨んだ。
「こっちの台詞だ! 信頼できない人間はこの部屋に入れることはできない」
「はぁ……わかったよ。最初から話すよ。本当のことを」
グエンが苦手な理由……わかったわ。彼が人を殺してるからじゃないの。彼はどこか悲しげで、本当のことを話さないからだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます