第44話 招かれざる客

 扉を開けると、初老の男が疲れ切って立っている。抱えているのは灰色の猫だ。


「キャンディのおっさん、どうした?」


「アレックス……悪い! またこいつを預かってくれないか? 孫が顔を見せに来てくれたんだが、猫アレルギーになっていてな……」


「あのなぁ、うちはペットを預かるところじゃあないんだよ」


 ローズマリーが首を傾げた。

「キャンディのおっさん?」


「猫の名前よ」と私。


 猫はシャーシャーッと威嚇してアレックスを睨んでいた。かわいい名前と見た目がやっぱり合っていない。前に預かったときは、飼い主の彼が熱を出したからだったわ。


「お前、相変わらずかわいくないなぁー」


 猫はさらにシャーッと言う。言葉がわかるのかしら? 過去にキャンディが逃げ回り、大捕物になったことを思い出したのだろうか?


「頼むよ……。アレックス宛の速達をそこで元部下から預かったから」


「速達?」


 アレックスに速達なんて……私が見たのは初めて。キャンディのおっさんは上着のポケットから、白い封筒を出した。


「……あ? 相手の名前が書いてないぞ。速達って書かないとダメだろ?」


「心付けを渡したんだろうなぁ」


「なるほどな……おっさん、前は配送屋だったな。まあ……24時間、キャンディを預かってやるよ」


「ありがたい。お代は後でもいいか?」


「今回はいらない。特別だ。そのかわり俺がなにか用を頼むかもしれないから、そのときは頼むぞ」


「え?!……それは怖いな」


「法律は破らないから安心しろ。無茶なことは言わない」


 アレックスはキャンディのおっさんの肩を叩いて送り出した。おぉぉうと、おっさんは口ごもっているけど大丈夫かしら?


 猫はいつの間にかローズマリーに抱かれている。この猫……人の好き嫌いがあるの? 

「あらあら、甘えん坊の猫ちゃんですわ〜」


 ローズマリーのふっくらした丘陵に包まれて、キャンディったらご満悦の顔してる。

静かにしてるとかわいいのだけど。

 

 アレックスはすぐに封を破った。


「……はぁ?! グエンがここに来るって」


「グエンが無法島から来るの? いつ?」

 私はアレックスの肩越しに手紙を覗く。


「今日だ。こっちで買い物したいから数日泊めてほしいって書いてある……」


 えええ?! 今日?


 そんな……どうしよう。私、本当はグエンて苦手なの。だって女性の扱いが上手くて、顔はあの美貌だし……それに昔は犯罪に手を染めてたし。それにそれに……。

 アレックスはテーブルを叩いた。


「グエンの奴、自分の立場わかってるのか?」


 ローズマリーは意味ありげに咳き込んだ。


「ねぇ、あなたたち……どうするの? 一緒に檻で眠れなくなるんじゃなくって?」


 そうだった。グエンの奴……結婚したばかりのくせに。マリアを一人にして、私たちの邪魔するなんて。


 もう……これからは狼のアレックスに毎日くるまって眠りたいのに!


「それに猫ちゃんもどうするの〜? 普段は夜はどうしているのかしら?」


「依頼された動物を見つけたら、その日のうちに必ず飼い主に返してる。どうしてものときは、サイズに合わせた檻に入れる。あたしのいる檻とは一番離れた部屋に置くんだ」


 確かに、すぐアレックスは依頼主に返しているわ。


「おい! ローズマリー。お前は早く家に帰れよ。グエンが来たらやっかいだからな」


「そんなぁ〜!! とっても会いたいわ〜。マリアの旦那様でしょ? 時の人じゃないの!」


 心底がっかりするローズマリー。私も帰る方向に話を振る。


「でもサロンのお客様もいるでしょ?」


「おほほほほ! 今日は定休日ですわぁ」


胡散うさんくさい同士だからな、お前ら。会わせたくない」


 確かに。出会っちゃいけない二人よね。ローズマリーとグエンは。

 ローズマリーは束ねた髪の毛を急にほどき、掻き上げてみせた。


「まぁ〜、ひどいこと言うわね〜。アレックス? あなたの傷を治したのは、どこのどいつだい?」


「…………」


「あたくしよ!」


 仁王立ちのローズマリーは、そのまま部屋から追い出された。



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