Episode11:utopia

楽園の入り口、それはその階層を最後まで登ったところにあった。

鉄の梯子を辿っていくと、丸い蓋があったので、それを押し上げると、『楽園』のマンホールにつながっていた。それも、建物の裏に巧妙にカモフラージュされたマンホールだ。なるほど、秘密のルートである意味がわかった。

花の溢れる楽園、それはまるで幸せな時に見る静かな夢の中みたいな場所だった。

よく手入れされた庭園、劇場、美しい音楽。

自然の奏でる音と、貴族たちの紡ぐハープの音色が調和し、まるで時の流れにすら意味を与えるような旋律を生み出していた。

貴族たちは、本当に民たちから厳しい税をとり、あんなに酷いことをして『楽園』を造ったのかと思われるほど美しく、温和で親切な人々だった。僕らが道を尋ねると、嫌な顔ひとつせず丁寧に目的地まで案内してくれたし、ミアが石につまづいて転んだ時には、周りにいた全員が彼女に声をかけ、手を差し出した。彼女は、ちょっと照れくさそうに、差し伸べられた手を握った。また、兵隊の姿はどこにも見当たらなかった。きっと、平和すぎて警備をする必要がないのだろう。

僕らは、『楽園』の中にある街に立ち寄った。そこは、まさに西洋の城下町のような場所だった。石造りの地面や建物、町民たちが共同で使うための吊るし井戸、そして、先の尖った大きな時計台。そんな住宅街の中心には、大きな広場があった。もちろん、それは空に浮かぶ林檎の中ではあるが、僕はまるで自分が地面を通して地球の中心と見えない糸で繋がっているような気がした。広場の周辺には、多くの店や屋台が並んでいた。人々は、小さなバスケットを提げて、その市場に並べられた不思議な果物や野菜を吟味したり、良質な魚や羊肉を選んだりしていた。また、画家が絨毯の上に並べた美しい絵画に目を輝かせ、花園から摘んでこられた綺麗な花の香りを嗜んでいたりもしていた。アイスクリーム屋もあったし、花火を売る店もあった。広場には暖かくて優しい風が吹き抜け、時々屋台の垂れ幕をさらさらと揺らした。

僕らは、広場の外れにある小さな雑貨店を覗いていた。ミアとミホが、そこに並べられた綺麗な石のアクセサリーに興味を持ったので、色々と店主に話を聞いていたのだ。

「このアクセサリーは、奥さんが作ったんですか?」

ミホがふくよかな店主の女性に尋ねる。

彼女は、とても感じの良い微笑みを浮かべて、嬉しそうに頷いた。

「ええ、そうよ。ここにあるのは全部私の手作り。そのピンク色の宝石は、この神殿の中にある洞窟から採れたものなの。私は、アクセサリーを作る時、それを身につけてくれる人があの世での人生を幸せに、笑顔で生きてくれることを願っているの。あなたにはまさしくピンクがお似合いだと思う。ピンクはあらゆる感情を象徴する色なの。例えば、葛藤、嫉妬、ときめき、愛など、マイナスからポジティブなものに至るものまでね。だから、繊細なあなたの感情が揺れ動く時、このネックレスはいつもあなたのそばにいてくれる。私はそれを確信できるわ。」

ミホは目をキラキラと輝かせて、そのネックレスを手に取る。そして、何かを決意したように頷く。

「うん、決めた!私、これを買う。」

「ええ、それがいいわ。安くしとくわね。」

すると、ずっと何かを見ていたミアが小さな声でポツリと呟く。

「素敵...」

ミアはひとりごとのつもりで言ったようだが、店主の奥さんは彼女の言葉を聞き逃さなかった。そして、ミアの耳元で何かを小さな声で話しかけた。

「あなた、恋をしているんでしょ?」

「え!?」

ミアは驚いて耳を離し、なぜか僕のことを見つめる。僕は彼女が何を言ったのかわからなかったので、ただキョトンと二人を見つめていた。

奥さんは腕を組み、「うんうん。」と頷いた。

「ええ、わかるわ。私にも確かにそういう時期があったもの。きっと、あなたの願いは叶うわよ。あぁ、夢があるって素敵なことね。私、思うんだけど、時の流れに身を任せるっていうのは、いろんなものを失い続けるってことなんじゃないかしら。でも、こうやって思い出せるのだから、それも悪くないわね。よし、決めた!あなたには、これを、あげちゃう。」

そして、奥さんはミアがずっと眺めていた(と思われる)純白の真珠がいくつも連なったブレスレットを彼女の細い手に通した。ミアがそれをつけると、まるで地上に降りたったか弱い天使のように見えた。

ミアは、しばらく顔を赤くして俯いていたが、自分の腕にかけられた光り輝くブレスレットを見て、思わず笑みをこぼした。

そして、僕の方を見る。

「どうかな、似合う?」

「うん、いい感じ!」

僕がグーサインをすると、ミアは頷いた。

そして、真珠のブレスレットにおまじないをかけるように、彼女は長い間目を閉じていた。やがて、ミアは親指と人差し指をくるくると擦り合わせて、僕に言った。

「さあ、次はユウの番だよ。

私たち二人とも買ったんだから、ユウも何か買いなよ!旅の思い出になるでしょ。」

僕は首を振る。

「ううん、いいよ。僕、アクセサリーとか、あんまり興味ないから...。」

すると、ミホがなぜかニヤニヤと笑いながら僕の肩を叩く。

「いーじゃん、いーじゃん。ミアもこう言ってるんだし、あなたもたまにはオメカシしなきゃ。」

そして、二人は僕の体に色々な装飾を付け加え始めた。耳には大きなイヤリング、首にはピカピカのネックレス、指にはオパールの指輪、腕には派手なブレスレット、脚には何重ものミサンガ...。僕は目立ちたくなかったので、結局小さなオパールの指輪だけを買うことにした。

店主の奥さんはそんな僕らを見てくすくすと笑い、「まあ、仲良しだこと。」と言った。



僕らは、楽園の中にあった小さな旅館で部屋をとり、木でできた階段を上がって、廊下の突き当たりにあるドアを開けた。そこは、よく手入れの行き届いた、明るい部屋だった。ベッドのシーツにはシワひとつなく、ピカピカに磨かれたテーブルの上には美しい花をいけた花瓶が置いてあった。でも、なぜ『楽園』に旅館が必要なのだろう。外からの来客なんて、まず来ないというのに。それを考えて、僕は経験則的に一つの結論を得た。きっと、どこか遠くに行くことはなくても、たまに自宅とは別の場所で旅行気分を味わいたくなる時があるのだろう。そういうのが、人生の潤滑油になったりもするものだ。うん、やっぱりずっと家だけにこもっているのはよくない。いや、その話はまた今度だ。

まずは、『楽園』の最上階にある城へ辿り着かなくてはいけない。

「皇帝が本当にいい人なら、私は『宝』をこそこそと盗み出すんじゃなく、玉座の間に行って、彼とこれからの世界についてしっかりと話をしたい。そして、彼の許可を得た上で『宝』を手に入れたい。」

ミアはそう話した。

「それと、いくら貴族だって、私はあの優しそうな人たちまで戦いに巻き込みたくない。

だから、ケリは全部、林檎の上でつける。絶対、神殿の中には戦火を入れさせない。」

ここに住んでいる貴族たちが優しいのは、貧民街でミアたちの送っている苦しい生活を知らないからではないか?自分たちの幸せな生活が、下界の幽霊から搾り取った税によって成り立ち、この『楽園』自体計り知れない数の犠牲によって作られたことを忘れてしまっているからではないか?僕はそのことを言おうかどうか少し迷ったが、結局口には出さないことにした。ミアはそれでもきっと、決心を曲げないだろうと思ったからだ。きっと、そういう問題ではないのだ。何も知らず、ただ毎日を幸せに過ごす人々の生活を無条件に奪う権利なんて、どこの世界にも存在すべきではないんだ。

「いい?『楽園』の最上階には、この街から伸び続ける坂をひたすら登っていけば辿り着ける。問題は、どのタイミングで軍隊を呼び込むかだよ。私たちが城に潜入するためには、帝国軍の気を逸らさなければいけないし、まず怪しまれないようにしなければいけない。だから、チャンスは絶対に見逃しちゃいけないの。今日から、徹底的に城の様子を探るわよ。」

ミホは首を傾げる。

「でもさ、街に兵隊たちなんてどこにもいないじゃん。この感じじゃ、お城の警備だって大したことないんじゃない?そもそも、皇帝の周りには、そんなに強力な貴族や軍隊がいるの?この街の人の様子を見た感じ、とてもそんな風には見えなかったけど。」

ミアは頷く。

そして、大きなため息をつく。

「うん、確かに兵隊たちの姿は見えないよね。でも、それは警備や支配なんてものが普段のこの街には必要ないからなの。町民たちには、魂の奥底に至るまで、皇帝への尊王思想が染み付いているから、反逆なんて起こすはずがないのね。でも、幽玄帝国で噂された話によると、彼らはやる時は徹底的にやるそうよ。もし、侵入者がいることに気づいたら、容赦無く潰しにくるでしょうね。そして、この『楽園』にはあらゆるところに皇帝の目があるの。それはもちろん、抽象的な意味でも、実際的な意味でもね。口を滑らせて皇帝のことを批判したりすると、それはすぐに帝国軍のところに伝わるし、何より怪しい行動は常に監視されている。敵は至る所にいるのよ、この街の平和の裏に隠れてね。まるで、あの『雨の街』の地下に隠された闇市場みたいに。」

そして、僕らは城に潜入する機会をずっと探っていた。怪しまれないように、他の町民にうまく紛れそうな時は、坂を登って少しでも最上階に近づいたが、それでもなかなか城の方まで向かう町民はいなかった。きっと、皇帝の住んでいる城の周りは、町民たちにとって『聖域』のような場所なのだろう。恐れ多くて、ただの民が王の御前に近づくことは、宗教的タブーになっているのだ。そんな事情もあって、僕らは他の町民たちと同じように、平和な世界に身を置いていた。それは、目覚まし時計すら大きな欠伸をしてしまいそうな、ゆったりと流れる穏やかな時間だった。

だが、ある日、そんな日々にも終わりが来る。あのニコたちが、城に潜入しようとして失敗し、兵隊たちに囚われたのだ。

彼女たちは、罰として魂を枯れるまで搾り取られ、その身体からは色が失われてしまっていた。いや、色だけではない。そこには、光そのものがなかった。この世界に存在し続けようとする、精神の耐久力のようなものが、どこにも見当たらなかったのだ。まるで、核戦争で何もかもが滅びた世界に取り残されてしまい、生きる望みを失ってしまったかのように。ニコたちの瞳からは、かつての明るい輝きが無くなってしまっていた。ニコのオレンジ色の綺麗な瞳は、暗く濁って泥のようなコーヒー色になっていた。彼女のつるりとした髪は、茹でかけのほうれん草のようにだらんと肩に垂れていた。あんなニコの姿を見たら、ミアはどう思うだろう?僕はミアのことを見つめる。彼女は、目の前に映っていることがいまだに信じられないという風に、瞬きもせず目を大きく開いていた。リトは、まるで暗闇の中に取り残された子犬のような顔をしていた。恐怖というより、そこには諦めのようなものが感じられた。今にも、沈黙という名の悪魔に食べられて、人生に対する希望を奪い取られてしまいそうだった。ミホはもう我慢できないというように、体をブルブルと震わせていた。そして、僕は違和感に気づく。なぜ、彼らは二人だけなんだ?一体、ヒカリちゃんはどこだ?彼女もニコたちと一緒に城に潜入しようとしたのではないのか?もしかして、彼女だけは兵隊たちに見つからず、うまく逃げることができたのか?もしそうだとしたら、僕は彼女を助けに行かなくちゃいけない。リクを助けに来たというのに、ヒカリちゃんまで失ってしまったら、僕は彼に合わせる顔がない。僕は、試しに刀を取り出して、捕まった二人の魂の「核」を調べてみた。しかし、彼女たちの胸の奥に光るのは、まるでプラネタリウムの1番外れにある、小さな四等星のような大きさの緑の玉だった。それは、今にも燃え尽きようとしており、微かな輝きは楽園の光の中に吸い込まれてしまっていた。僕は、そんな彼らの酷い姿を見て、かつて自分が生きていた頃に感じていた「死」への恐怖を思い出した。冷たい鉄の塊で、自分の心臓をボーンと叩かれたような震え、根源的な恐怖。死ぬのが怖い、それはこの世では、実は肉体を失うのが怖いという意味だった。しかし、あの世においてその言葉は、魂の消滅、つまり無への回帰に対する拭いきれない孤独を意味する。

町民たちは、彼らのことを見向きもせず、いつも通り楽しい歌を歌ったり、買い物を楽しんだりしていた。まるで、侵入者のことになんて、微塵も興味がないというように。唯一、雑貨屋の奥さんだけが僕らに言った。

「いやねぇ、あの人たち、皇帝様のお城に侵入しようとしたらしいじゃない。全く、汚い都会のネズミみたいな連中ね。あんなに腑抜けた顔をしちゃって。多分、心を奪われたのね。あぁ、おっかない。」

僕らは、坂を下って兵隊に連れて行かれるヒカリちゃんたちを助けるために、今にも武器を持って飛び込もうとした。しかし、そんな僕らの手をミアはがっしりと掴んで言った。

「何やってるの、こんなところで行ったら、私たちも捕まって魂を抜かれるのがオチよ!」

僕は小さな声で叫んだ。

「でも、ここで助けに行かなかったら、ヒカリちゃんたちは...ニコはどうなるの?あんな風になっちゃって、僕には見捨てることなんてできないよ!」

ミアは強く首を振る。

「違う!ニコたちは決して死んだりしない。

あれは、イデア技術によって、魂を抜かれただけなの。私たちが城に潜入してみんなの魂を取り戻せば、3人を元に戻すことができる!逆に、ここで飛び出して私たちまで捕まったら、彼女たちはずっとあのままよ。それだけは避けなきゃ。ねぇ、分かる?ここで熱くなっちゃダメ。今は、機会を待つの。」

そう言うミアの顔は真っ青になっており、体はブルブルと震えていた。目は大きく見開かれ、黒の髪は瞼の上に重く垂れかかっていた。そんな彼女の姿を見て、僕とミホは何も言うことができなかった。そうだ、ミアだって苦しいのだ。自分の妹であるニコがあんな姿になって、これからどう兵隊たちに扱われるかもわからない。兵隊たちが彼女たちを『楽園』の下層に連れて行ってしまうと、やがて勲章をつけ、自らを「軍曹」と名乗る男が広場に町民たちを集めた。町民たちは皆、「なになに?」「私たち、どうすればいいの?」と、口々に不安を呟きあっていた。僕らは、ニコたちがどこに連れて行かれたのかをしっかり見届けてから、大勢の町民たちが押し寄せ合う広場へと向かった。

「軍曹」は大きな声で民衆に呼びかけた。

町民たちは皆、優しそうな人の顔をした幽霊たちであったが、軍曹や周りの兵隊たちは、みんな凶暴な肉食動物の顔をしていた。ライオン、カバ、トラ、オオカミ、ヒョウ、リカオン、ハイエナ、グリズリー、シャチ...。軍曹は、北の寒い海に生息する、真っ白な肌のヒョウアザラシだった。彼は、口から涎を垂らし、鼻息をせっかちに「ぶるる。」と震わせていた。とても『楽園』の住人とは思えない。

「これから、皇帝様の詔に基づいた、

我々帝国軍の侵入者に対する対策と町民への協力を集う!皇帝様を心から慕うものは、しっかりと私が今から言うことを耳に焼き付けてほしい。」

そして、彼は文書を広げてそれを

読み上げた。

「侵入者のイデアを分析した結果、

この神殿内には他にも皇帝様の御城へと潜入しようとする仲間がいるということだ。

全く愚かなことだが、そのような輩が存在する限り、我々は皇帝様のご加護を享受することができない。これは、侵入者を許した我々のせいでもあるのだ。皇帝様は、それをお怒りになっている。私たちの侵した罪は、私たちで拭わなければいけない。よって、これから各町民たちの家に、一人ずつ兵士を配属することにする。怪しい動きや、何かを匿うような仕草がないか、徹底的に監視をするためだ。便所に行ったり、外出したり、寝ている時など、全ての情報は我々によって管理されることになる。すでに、我々はこの街のあらゆるところに監視の目を行き渡らせており、全てを軍の機械によって管理している。悪いとは思うが、それも皇帝様に我々を愛していただくため、どうか認めてもらいたい。そして、軍は街の警備を最高レベルにまで引き上げる。今から、この街は人間たちの世界で言うところの、パノプティコン(一望監視施設)となる。全ての民の生活は、我々によって把握され、少しでも怪しい行動をしたものは、即刻、騎士隊本部まで出頭してもらうことになる。これからは、家の壁から街の天井に至るまで、あらゆるところに監視の目があると思え。それこそが、皇帝様の敬愛する、ポル・ポト政権の考え方なのだ。通告は以上、各自家に戻れ!」

そして、僕らは旅館へと戻った。

今に、この旅館にも軍隊から派遣された兵隊がやってくる。

時間はもう、残されていない。

僕らは、荷物をまとめ(しっかりと《メタファー》の剥製をバッグに入れ)、亭主に宿泊代を払うと、武器を握りしめて旅館を発った。僕らは、町民たちの目も気にせず、坂道を駆け上がった。どこまでも続きそうな石の道。僕の息はすぐにゼーゼーと速くなり、足はジンジンと痛み出す。横っ腹がいたくなり、血の巡りが速くなる。でも、僕は知っている。そこには必ず終わりがある。人生に終わりがあるように、どんな道にだって始まりがある限り終わりはあるのだ。そして、今の僕に身体はないのだ。全ては、僕の魂が作り出した幻想なのだ。宇宙の闇があらゆる液体を固体に変換するように、僕はそんな決意を自分の中で確固たるものにしていった。すると、ある時、僕は凍った自分の魂の輪郭を掴む。間違いない、今それは僕の中にある。言い方を変えるなら、それだけが僕の中に存在する。感覚が覚醒し、僕は新たな殻を手に入れる。それは、筋肉が凝固し、精神的持久力の底が抜けた、僕にとっての新世界だった。

前へ前へ前へ。もう、僕は息を切らさない。

疲れないし、汗もかかない。髪だって揺れないし、痛みも感じない。所詮、それらは全て錯覚なのだ。捉え方次第で、人はどこまでも成長することができるのだ。ミホもやがて魂の輪郭を掴み、自らの殻を変換させた。ミアは、嬉しそうな顔で振り向き、僕らは風のように走り抜けた。

僕らはものすごい勢いで坂道を駆け上がり、すぐに小さく城の見えるところまで来た。地面には青々とした芝生、そして歌うように飛び回る小鳥たち。周囲を、綿菓子のような雲と青い空が囲み、僕に眩しい太陽の光を投げかけた。そうだ、『楽園』は所詮ハリボテの世界に過ぎない。現実とは、こんなにも強く美しいものなのだ。僕らは脚に創造力を込めて、『走れメロス』のように想像上の犬を蹴飛ばし、鳥を飛び立たせた。しかし、すぐに僕らの存在に気付いた軍は、兵隊たちを僕らの元に送り込んだ。城の方から、蟻の群れのような銀色の大群が押し寄せてくる。ものすごい数の軍隊だ。およそ、5000人ほどはいるんじゃないだろうか。皇帝のいる城は、こんな数の兵隊を抱え込めるほど巨大で、懐が広いのだろうか。あるいは、何か美味しい餌を与えているのかもしれない。おそらく、貴族たちと軍隊は何らかの対価で密接に繋がっているはずだ。遂に軍隊と僕らの距離が間近に迫った時、僕は驚いて立ち止まざるを得なかった。嘘だ、そんなことがあるはずない。なぜか、帝国軍は《メタファー》を従えていた。まるで、彼らは馬のように恐竜たちを乗りこなし、鞭を使って車のエンジンを蒸すように興奮を高めていた。唖然とする僕に向かって、ミアが叫ぶ。

「今よ。今しかない!

今こそ、私たちも軍隊を呼ぶのよ。」

そして、僕はバッグから瓶に詰まったオヴィラプトルの剥製を取り出した。そして、芝生の上にそれを立てると、僕らは3人で精一杯創造力を込めた。今にも、帝国軍は僕らの目の前に迫り来ており、恐竜たちの叫び声が聞こえてきた。僕はこの時、ある日自分が見た夢について思い出した。なぜかは分からない。だが、それは運命を象徴するように、あくまで自然に僕の前に現れたのだ。目を閉じた時に見える景色のような、形にならない情景。


「僕の見た夢」


ある日の朝、僕の家の庭に一機の飛行機が墜落した。

それはすごい音だったので、僕はぐっすりと眠りについていたところを無理やり起こされることになった。

飛行機には、一つしか座席がなく(もちろん操縦席だ)、機体の先頭の部分には大きなプロペラがついていた。何か見覚えがあるな、と思ったら、その飛行機はカメのような形をしていた。そしてそれは、とても小さな飛行機だった。僕がびっくり行天してその飛行機を眺めていると、中からパイロットと思わしき少年が出てきた。

幸いなことに、彼には怪我一つないようだったので、僕はほっとした。僕は、彼に冷たいお茶を出してやった。

彼は嬉しそうにそれをごくごくと飲むと、背伸びをしてこう言った。

「お宅の庭をめちゃくちゃにしてしまい、本当にすみません。実は自分、日本縦断の飛行大会に参加している最中だったんです。」

僕が、その大会は一体どんなものかと聞いたので、少年は説明を始めた。

「日本各地の機械いじりたちが、自分で改造した飛行機を使って文字通り日本列島を一周するのです。僕は横浜からスタートしたのですが、どうやらネジの巻き数が足りなかったようですね。」

ネジの巻き数?と僕が尋ねると、彼は「ハイ、僕の飛行機はゼンマイ式なんです」と答えた。

僕はとても驚いた。よくそんな飛行機で飛ぼうとしたものだし、ここまでたどり着けたものだ。

彼は続けた。

「僕、このレースに命を賭けてたんです。母が病気なので、その治療のためにどうしてもこのレースの賞金が欲しかったのですが、もう終わりですね。銀行強盗でもするしかありません。」

しかし、彼は急に泣き出して今の発言を訂正した。

「でも、やっぱりそんなことできません。僕には勇気がありませんし、第一ヒトサマに迷惑をかけるなんてとんでもないことです。こうなったら、首を吊るしかありません。僕はもうおしまいだ。」

こんなネジ巻きの飛行機で空を飛ぼうと思った時点で十分勇気はあるだろう、と僕は思ったが、それはともかく、僕は彼のことをとても気の毒に思った。

僕は彼に対してこのような言葉をかけた。

「あなたは立派です。自分の命をかけてまでご家族を助けようとするなんて、到底普通の人間にできたものじゃありません。私に何かできることはないでしょうか。」

彼はまだずっとわんわん泣いていたので、僕の言葉が耳に入らないようだった。僕は彼を助けたいと心から思っていたので、新しい飛行機をこしらえてやることにした。僕は日曜大工が得意なのだ。彼がずっと泣いている間も、僕はノコギリをギコギコ動かし、木で飛行機の部品を組み立て続けた。カメのヒレに当たる部分(これが飛行機の翼だ)を新しく作り直し、釘打ちで強力に固定した。そして、何日かそのようにした後、ようやく新たな飛行機が完成した!

少年は、その飛行機を見て深く感動したようだった。僕の好意に対してとても長い謝礼を述べた。

「本当にありがとうございます。あなたの御恩は永遠に忘れません!」と彼は締めくくり、僕らは二人で一緒にネジを巻いた。

そして、彼は再び大空に飛び立っていった。

彼がその後、果たしてレースで優勝できたのかは僕にはわからない。あるいは、またネジ巻きが足りなくなってどこかに墜落してしまったかもしれない。

僕は一生懸命毎朝のTVニュースをチェックし、たくさんの新聞を読んだけれど、「日本縦断の飛行大会」に関してはどこにも載っていなかった。

おそらく、ミアとミホも今まで自分が見た夢の景色を思い浮かべたのだろう。彼女たちは、途切れ途切れに意味のわからない独り言を口走っていた。そこには意味がなかったし、脈絡を読み取ることはできなかったけれど、夢の中では何より曖昧さこそが真実になりうる資格を持つのだ。夢というのは、あの世とこの世、どちらにも存在する、まだまだ未知の世界だった。僕らは感覚的にそれを理解し、未知を強力な創造エネルギーの火種にした。僕らがありったけの創造力を込めると、オヴィラプトルの目が青く輝き始めた。そして、《メタファー》は再び息を吹き返し、瓶の中でじたばたと暴れた。水を掻き、口をぱくぱくと閉じたり開けたりしている。

「ひゃっはーっっっ!」

その時、《メタファー》の剥製が入った瓶が破裂した。瓶の中からは彗星のような光が飛び出し、花火のように空高く開花した。そして、林檎のつるりとした表面には、文字通り『革命』が起こったのだ。武器を持ったたくさんの荒くれ者たちが、天空から帝国軍の《メタファー》隊列に襲いかかった。創造力を込めたマシンガンが兵隊たちの魂や《メタファー》の核を撃ち抜き、豪胆な剣が周りの兵隊たちを薙ぎ払った。彼らは、ゾウやシマウマの顔をした戦士たちだった。僕の目の前で繰り広げられているのは、まさに肉食動物と草食動物の戦いだ。動物たちが鎧をつけて、刀や銃などの武器で殺し合っている。それはまさに、自然界の闘争そのものだった。

「よくも現世で俺たちの仲間をいじめやがったなっ!これは、お前らへの裁きだぜ!」

そう言いながらも、草食動物たちは楽しそうに暴れ回っていた。当たり前だ。だって、本当は前世の恨みも何も覚えていないのだから。彼らは、何か戦う理由を欲しているだけなのだ。しかし、心から貴族や帝国軍に恨みを持っている者もいた。彼らは、貴族たちの厳しい税によって苦しい生活を強いられてきた貧民街の住人たちだった。彼らは、僕らの訪れた地下の倉庫から、それぞれ自分に合った武器を持ち出して、わずかな創造力を詰め込みながら戦っていた。長い間苦しめ続けられてきた怒りは凄まじいもので、彼らは槍や拳銃で見境なく兵隊たちの身体に穴を開け、魂が壊れるまで叩き続けた。

「ワシはやつらに狂信的な思想を叩き込んだ。とりあえず帝国軍を見かけたら、ぐちゃぐちゃになるまでぶっ潰せっ、てな。」

いつのまにか僕らの隣に立っていた闇市場の老人はニヤリと笑って言った。

「これが、長年積み重なってきた『楽園』に対する憤怒の反乱だ。ふふふ、面白くなってきたぞォ...」

僕らが唖然として戦場の光景を眺めていると、老人は僕の肩をとても強い力で叩いて言った。

「何ぼさっとしてるんじゃ!

お前ら、こんなところに立ってないで、

速く城へ迎え!チャンスはいつまでも続くわけじゃないぞ!」

僕らは、武器を握りしめて戦場へと走った。

創造力を込めた僕の刀は、緑色に光り輝き、戦場にはまるで幾千もの星のように瞬く緑の魂が浮かび上がった。

オルニトミムスに乗ったアライグマの兵隊たちが鋼の剣で僕に切りかかってくる。オルニトミムスは、物凄いスピードで僕を翻弄したが、ミアがレーザーで《メタファー》たちの足を狙い撃つ。恐竜たちが体勢を崩したその瞬間、僕は刀に身を任せ、敵の剣を吹っ飛ばす。オルニトミムスの足が再び再生しないうちに、僕は《メタファー》の核に向けて刃先を突き立てる。兵隊たちは、腰を抜かして後退りする。アンキロサウルスの尻尾を切り落とし、パキケファロサウルスの頭を吹っ飛ばす。テリジノサウルスの爪を欠き、ケントロサウルスの棘攻撃を防ぐ。ケラトサウルスの角を破壊し、トリケラトプスの盾を粉砕する。そして、すかさずミアが「核」を狙ってレーザー撃ち抜く。そんな風に、僕らは進んで行った。仲間の幽霊たちと協力しながら、帝国軍を退けていった。

「先に行って!私はあなたたちみたいに体力がすごくないから、ここで味方のサポートをする!」

そう言ってミホは幽霊ゲットーから持ってきた剣を抜き、後ろを振り向いた。

と、ここまでは僕らの軍の活躍を描いてきたが、決して帝国軍が弱かったわけではない。

帝国軍の兵隊は厳しい訓練を積んだエリートたちの集まりだったし、いくら平和な『楽園』で暮らしていたとはいえ、自分たちの欲望を満たし続ける安泰を守る為ならどこまでも体を張ることができた。実は、彼らは皇帝の周りの貴族たちから、金、土地、酒、女などの富を与えられていた。そして、訓練や皇帝の護衛がないときなど、彼らは下界に行って自らの欲のまま遊び呆けていたのだ。時々、彼らは貧民街に行って弱い民たちをいじめたり、クラウドシティに来た下級貴族から金を巻き上げたりもしていた。何か少しでもムカつくことがあると、無実の民を斬り殺したり、女を襲ったりもした。だから、彼らは下界の民から忌み嫌われ、恐れられていた。そんな彼らの頂点に立つもの、それがヒョウアザラシの面をした「軍曹」だった。

「軍曹」はあらゆる面において軍人だった。彼は皇帝を崇拝しており、上からの命令は何があろうと完遂した。彼の左目には深い傷跡が残っていたが、それは皇帝の側近である摂政、プラトンを税に苦しむ貧民の攻撃から守った時についたものだった。その傷は彼にとっての誇りだった。彼にとって、下界の民がどれだけ苦しい生活を送っているか、そんなことはどうでも良かった。ただ、自分の敬愛する皇帝、自分の従うべき貴族たちのためになることならば、なんでも行うという覚悟を持っていた。部下の兵隊たちが下界に遊びに行った時も、彼はずっと鍛錬を怠らなかった。彼は、自分は死ぬ前もきっと軍人であっただろうと思っていた。きっと、ドイツのスターリングラード前線あたりで国のために英雄的死を遂げたのだ。

城に入る目前、魂に飢えたティラノサウルスに跨って、彼が僕らの前に立ちはだかった。

黄土色の硬そうな肌、ギョロリと僕らを見つめる赤い目玉、そして、地面に押しつけられた巨大な三叉の刻印。ティラノサウルスが口を開くと、白い涎がまるで蜘蛛の巣のようにピンと張っていた。《メタファー》の頭には十字架型のアンテナが接着されており、軍曹はラジコンみたいなリモコンを持ってカチカチと恐竜を操作していた。

「皇帝陛下の御城には、一歩たりとも近づかせん!」

僕は、ティラノサウルスの心臓が緑に発光し、どくどくと脈打つのを見た。間違いない、これがあの《メタファー》の「核」だ。

ミアが僕の方は見て大きな声で尋ねる。

「ユウ、この《メタファー》にあなたの刀は届かない!私のレーザーで仕留めるから、核の大体の場所を教えて!」

僕は叫ぶ。

「心臓だ。ティラノサウルスの核は心臓にあるよ!」

しかし、ミアはキョトンとして僕の方を見る。僕が何を言っているのか分からないという風に。

「心臓?心臓ってどこ!?」

「!?」

僕は考える。

そうか、ミアには心臓がないんだ。

一体、どうやって彼女に心臓のことを伝えればいいのだ?

僕は自分の胸に輝く緑色の丸い光に気づく。

そうか!

僕は叫ぶ。

「ミア!ここだ!」

そして、僕は自分の左胸を叩く。

ミアはそれを見てハッとしたように頷く。

「オッケー!」

そして、彼女はくるりと体を翻して、レーザーの引き金を引く。

橙色の光線が、ティラノサウルスの膨らんだ胸に向かって放たれる。

「うぎゃあぁ!」

軍曹とティラノサウルスは仰け反るような素振りを見せ、体制を崩した...かのように見えた。

だが、彼らはやがて何も起こっていないように体勢を立て直し、僕らを見てニヤリと笑った。

「ティラノサウルスの厚い肌に、そんな柔な熱線が通じると思うか?」

ミアが歯を食いしばる。

「くっ...!」

そして、軍曹の操るティラノサウルスが僕らの方へと迫ってくる。僕は刀を使って踊るように刃を走らせるが、恐竜の硬い皮膚には擦り傷ひとつつけることができない。僕はそのまま鋭い鉤爪のついた足に蹴り飛ばされ、芝生の地面に倒れ込む。くそっ!もう一度行かなきゃ!しかし、僕が立ちあがろうとしてと、なぜか体は動かない。骨がきしみ、筋肉が悲鳴を上げる。

「うっ...!」

そして、僕は自分の体に深い傷跡がついているのを見つける。それは所詮「殻」なので血は流れないが、痛みは打ち込まれた釘みたいに激しく存在を主張する。僕は自分に暗示をかけようとする。違う、これは僕の錯覚に過ぎない。本当は、痛みなんてどこにも存在しないんだ。だが、なかなかその感覚を消し去ることができない。僕は顔を歪める。痛い。痛い。痛い。僕は自分の心の中で首を振る。いや、違う。痛くなんかない!

ティラノサウルスがミアを目指して駆ける。ミアは再び引き金を引こうとしたが、遠心力によって加速した恐竜の尻尾が彼女の銃を弾き飛ばした。風圧でミアは地面に倒れ込み、風が地面を削った時の砂煙のせいで視界がぼやけた。煙が晴れ、僕がミアの方を見た時、巨大な口が彼女の目の前に広がり、ミアは今にも飲み込まれそうになっていた。僕は自分の体を無理矢理にでも動かそうとする。僕の魂なんて、壊れてもいい。どうか、今だけは動いてくれ!しかし、僕の体はどこまでも動くことはない。

「とぅるるっとぅるるるん!」

その時、軽快なギターのリズムが鳴り響く。  

ティラノサウルスの口はパカっと開かれたまま動きを止め、ミアは急いでそこから抜け出す。驚いて軍曹が前方を睨むと、そこには後方で戦っていたはずのミホの姿があった。

「あんたの相手は私よ!

このシロクマ野郎ッ!」

軍曹は唸って牙を剥く。

「貴様、我が《メタファー》に何をした!」

ミホはニヤリと笑う。

「私のギターで、あんたのその図体ばっかりでかい家来くんは思考世界の中で眠りについたわ!さあ、そんなところに座ってないで、正々堂々サシで勝負しなさい!」

すると、軍曹はティラノサウルスの頭から飛び降り、背中に刺していた大剣を抜いた。

「いいだろう。もっとも、すぐに後悔させてやるがな。」

軍曹が目をギラリと輝かせて、ミホの方へと歩みを進める。

ミアは、僕とミアに向かって叫ぶ。

「二人とも、何やってんの!

はやく前に進みなさい!

ここは私だけでケリをつける。」

ミアは地面に手をついて、ぽかんとミホのことを見つめている。

「ユウ、はやく!ミアを連れて行って!」

僕はなんとか立ち上がった。。


「ありがとう、ミホ!

すぐに戻るから、絶対死なないでよ!」

僕がミアを背負い、城に向かって全力で駆けていくと、ミホはニヤリと笑った。

「全く、私たちはもう死んでるんだよっ!」

そして、彼女は軍曹と剣を交える。

軍曹の恐ろしく強い腕力は、ミホの腕をギリギリと消耗させる。

「ふん!お前を殺したら、すぐにあいつらを追いかけて、《虚無》の世界で再会させてやるさ!」

ミホは手を震わせながら、軍曹の言うことを無視して続ける。

「まったく、私の大好きなミアを傷つけでもしたら、ただじゃおかないから...!」

『楽園』の頂点に居を構える、人間の世界の様々な文化を取り入れた宮殿。インドにあるような丸いランプ型の屋根、古代ローマに建てられていた巨大な神殿のような城、ヴェルサイユ風の広大な白い庭園、真っ赤な鳥居と碁盤のような平安時代の都造り。それこそが皇帝の住まう、『幽玄城』だった。庭園の中心にある湖には、歴代の皇帝たちの墓碑がそれぞれ建てられていた。太陽が水面に反射し、鳥居の下にいる僕らの目を焼いた。眩しすぎて、前が見えない。これじゃあ、まっすぐ城に辿り着くことができるかどうか...。何せ、城までの道のりは何kmもあるのだ。

「ゴォーッ!!!」

雷のように轟く燃料の音を響かせて、林檎のすぐ上を人間たちの操るジャンボジェットが通り過ぎる。僕は空を見上げる。太陽が飛行機の機体によって隠され、一時的に僕らの目は日光から解放される。懐かしいな。その刹那、僕は心の底で幼い頃初めて飛行機に乗った時の記憶を現像する。確か、北海道に行ったんだった。東京から発つ際、僕は飛行機が墜落することを恐れて、断固として空港から離れようとしなかった。きっと、テレビのドキュメンタリーの見過ぎだ。しかし、僕は父親に無理やり抱っこされ、混み合った飛行機の座席にチャイルドシートと共に固定されることになった。結局、耳がキーンとしたこと以外は、すぐに高いところにも慣れて、後はのんきに携帯ゲームで遊んだりしていたんだった。北海道。ラーメンが美味しかったな。動物園ではシロクマやペンギンたちの行列が出迎えてくれたな。あぁ、もう一度行ってみたいな。だが、そんな懐古に浸ったのもほんの数秒だった。僕は、太陽が飛行機に隠された隙に、固い地面を蹴り込んで思い切り駆け出した。オリンピックに出ていた陸上選手の走り方を真似し、とりあえず腕と脚を動かし続けた。僕は風と一つになり、もはや疲れや痛みなど感じる暇すらなかった。


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