第5話
「見つけたぞウジムシども!!クソ撒き散らして死ねぇっ!!」
ベルパンツァーの砲身が火を吹き、零士達は今度こそ逃げる間もなく爆炎の中へと消える。
炎と爆煙が巻き起こり、隠れていた瓦礫ごとバラバラに吹き飛んだ。
「ははははっ!!ざまあないぜ!!」
そう都合よく助かる訳がない。これが現実。そんな皮肉が籠もったかのような下衆な笑いを上げるガナリー。
しかし、忘れてはいけない。先も話した通りこの物語の主人公は零士。
そしてもう一つ古い名言やことわざにあるように、何事も油断大敵。相手が勝ち誇った時、既にそいつは敗北しているという事を。
「はははは………は?」
先程までバカ笑いしていたガナリーは、爆煙の向こうからゆっくりと立ち上がる巨大な人影が見えた途端思考がフリーズした。
何が起きた?と言う前にその「何か」は、ベルパンツァーのように足で地面を踏みしめ、爆煙の向こうから姿を現す。
「おっ、おおお〜〜!こ、これが救世主の力………!」
感動するコットン教授も見上げる、その5mの巨体。
王冠のような角、胸に輝く宝石、青く眩しい地球の青に日差しのような金の装飾パーツを加えた、ツインアイの某機動戦士を思わせるマスクのヒロイックな人型ロボット。
たしかに、勇者と言えば勇者かも知れない。もっともそれは魔王を討つ剣の使い手ではなく、少年と絆を結ぶ喋るスーパーロボットという意味だが。
………作者の貧弱な表現で伝わらない方のために説明すると、某パイロット大好きな変態勇気ロボの赤い部分を青くして、頭を
「………ゼノンカイザー、参上!!」
コックピットに座っていた零士は、操縦桿越しにその強い勇気のエネルギーのようなものを感じていた。
奇跡が起きたとしか言えなかった。着弾・爆発の瞬間溢れ出した強力な光………このパンタジアにおいて魔力の名で呼ばれる超自然エネルギーが、手の中の玩具だったハズのゼノンカイザーを巨大ロボットの姿へと変えた。
それは在りし日の零士が想像力の中で共に冒険した正義のスーパーロボット・ゼノンカイザーそのものの姿であった。
「ゼノンカイザーだと!?ウジムシが気取りよって!泣いたり笑ったりできなくしてくれるわァ!!」
だが、その正義のヒーローが現れたような出で立ちはガナリーからすれば神経を逆撫でされたも同然。
例えるなら、マスコットキャラを虐待するアングラなミームを楽しんでいた所に自治厨の原作ファンがしゃしゃり出てきたと言うべきか。空気の読めない正義の味方の登場に怒り心頭のガナリーは、ベルパンツァーの砲塔の標準ををゼノンカイザーに合わせる。
「死ねぇウジムシが!!」
ドガァン!!と大気を震わすような衝撃と共に放たれた砲弾が直撃。
避ける間もなく受けた一撃に、ガナリーはメシウマを、コットン教授以下コボルト達は絶望を予見した。だが結果は、両者の予想を裏切るものだった。
「な………む、無傷だと!?馬鹿な!?特殊合金の装甲すら破壊する弾だぞ!?」
爆炎の向こうに立っていたのは、まったく無傷のまま佇むゼノンカイザー。
正規のテストを受け、軍で採用された兵器ですら破壊できないロボットを前に、ガナリーは己の持つ常識が全てひっくり返されたかのように狼狽える。
そして、零士は。
「己の醜い欲望のために罪もないコボルト達の村を焼いた報い………受けてもらうぞ!」
零士の一言一言に合わせてゼノンカイザーの目がピカピカと光る。零士は怒りに燃えていた。目の前の破壊を楽しみ他者をいたぶって笑うガナリーの性根に、非常に腹が立ったのだ。
ヒーローを気取ればネットで痛いオタクと叩かれるだろうが、相手は邪悪の擬人化のようなガナリーだから許してくれるだろうと自分を納得させ、ここはとりあえずコボルト達の期待している通りの救世主の使命に専念する事に決めた。
「ゼノンブレェェーーードッ!!」
ゼノンカイザーが胸の発光体が輝き飛び出した柄を掴み、引き抜く。すると一振りの実体剣が現れた。
これぞゼノンカイザーの得意武器にして必殺武器・ゼノンブレード!
勇者のメインウェポンが剣なのは、人もロボットも同じである。
「イキんなウジムシがぁ!!」
そんなヒーロー然とした様子に腹が立ったか、それともこれから待ち受ける自身の末路を本能的に悟ったのか、ガナリーは無我夢中でゼノンカイザーにベルパンツァーの手法をこれでもかと浴びせる。
だが案の定、ゼノンブレードを構えたゼノンカイザーには傷一つつかず、それ所かゼノンカイザーは背中のバーニアを噴射してベルパンツァーに真っ直ぐ斬り掛かってくる!
………斬られる直前、ガナリーは思った。避けるにはもう時間がないと。
「ライジング………
そしてベルパンツァーは剣の一撃によって斬り伏せられる、悪役機に相応しい末路を迎え、内部機能の誘爆により大爆発を起こした!
「う、ウジムシがぁぁ〜〜〜〜〜!?!?」
そしてガナリーもまた自機の爆発の中から飛び出した脱出カプセルに乗って空の彼方へと吹っ飛んでいき、三流の悪役のようにキランと星になった。
最後までウジムシウジムシと喚いていた。
「や、や、やったあああああ!!!」
「助かった!!助かったああ!!」
「喜ぶのは後だよ!まずはこの火を消さないと!!」
「おおーい!手を貸してくれぇ〜!」
そして自身の村を襲った悪党が退治された事を知ったコボルト達は飛び上がって喜び、驚異がない今のうちにと急いで消防と人命………否獣命救助に走る。
「流石です零士さん!それでこそワタクシが呼び出した救世主!」
コットン教授も、村を救った零士に最大限の賛美を浴びせようと考えていたのだが、そこでおかしい事に気付いた。
「………零士さん?」
さっきまで零士の声を放っていたゼノンカイザーが、途端にうんともすんとも言わなくなったのだ。
まるで、眠っているかのように………
***
夢を見ていた。在りし日の夢だ。
時代錯誤の熱血漢気取りの父親と、
チープでクオリティの低い、もしかしたら著作権的にもアウトかもしれないゼノンカイザーだが、だが零士にとっては自分の親友であり憧れのヒーローだった。
雑な塗装も零士の目には煌びやかなメタリック塗装に見えたし、肉抜き穴まみれの剣もかっこいい必殺剣ゼノンブレードに見えた。
想像の中で、零士はゼノンカイザーと一緒に何度も、何度も世界を救った。
地球に迫る巨大隕石を叩き斬った事もあった。
世界征服を企む秘密結社も、宇宙からやってきた侵略宇宙人も零士とゼノンカイザーの敵ではなかった。
悪人に囚われたヒロイン(演:本屋にあったアニメ誌の表紙のキャラ、詳しくは知らない)を助け出した事もあった。
ゼノンカイザーは、いつも零士の側にいてくれた。
ゼノンカイザーと一緒なら、零士はヒーローになれた。
***
「………さんっ………零士さん!」
やがて目を覚ました時、零士が最初に認識したのは心配そうに叫ぶコットン教授の声。
おそらく自分は戦いの後気絶してしまったのだと思った直後、ゼノンカイザーのコックピットがハッチが開いた。
「零士さん!しっかり………うきゃああああ!?」
「ん?どうしたの………へっ?」
やけに驚いた様子のコットン教授であるが、答えた零士も口を開いて異変に気づいた。
口を開いて出てきたのは異常成人男性特有の腐れ外道ボイスではなく、女性とショタコンに人気のあるホビーアニメに出てくるようなソプラノ少年ボイス。
それが零士自身の声であると気づいたと同時に、よく見てみれば若干コットン教授が大きくなっている事に気付く。
「………はい鏡」
どこから取り出したのかコットン教授が手渡したのは手鏡。その中を覗いた零士は、自分の身に起きた衝撃的変化を叩きつけられる事になった。
その鏡の中にいたのは病んでくたびれ果てた異常中年男性ではなく、サラサラの髪にぷにぷにのほっぺ、パッチリした目で女の子と見間違えられそうな………
「………小さい頃の、僕ぅ!?」
当時何故か我が子を野球選手にしようとしていた父親による鍛錬と称した虐待の数々と、大体同時期に始まったクラスメートからのいじめによるストレスにより心を病んだ事による
母親やその友達から可愛い可愛いと言ってもらえていた頃の、小学三年生時代の零士………もとい、レージの姿が鏡に映っていた。
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