《魔雪戦争》寒いのはもうコリゴリ
皇帝
突如として現れた【スノーフォックス】、この機を逃さんとする【バンディット】、何故か宣戦布告してきた【鬼ヶ島】と【神聖マヨネーズ】を滅ぼしたと思っていたら更なる苦難が訪れていたと誰が予想したか。
そして挙句の果てには――――
「商人を出せ!!」
「居るんだろ? 商人〜!!」
首都ゼノラナに攻め込んで来た鬼達は「商人を出せ」と不躾に徘徊を開始している。
現地点において、英雄はほとんどリスポーン時間で最早戦力と言えるものは存在していなかった。
戦場にて戦っていた他の兵士達も戦意喪失している。
北の方ではあの〈吹雪〉と鉄の軍勢にて蹂躙されていった。
東の方では恐ろしい〈聖なる号令〉と【バンディット】の群れによって粉々に轢かれていった。
これが、真の終末というものだろうか。
バンッ!!
玉座の間の扉が大きな音を立てて開かれる。
その方を見やると、大柄な鬼が玉座の間に侵入してきていたのだ。
それも、他の鬼よりも遥かに大柄な。
「むっ、小さすぎるぞ、この扉……ふんっ!!」
その大柄な鬼が腕を振るうと、暴風が吹き荒れ城の天井ごと吹き飛ばした。
私も自身の権能が無ければ
「これで良し、こっちの方が開放感があって好きだぞ」
「…………悪いな、私は狭い方が好きなタイプなんだ」
これについては本音である。
実の所、皇帝になったは良いが心の負担が大き過ぎて皇帝になった事を後悔していたのだ。
頑張って皇帝っぽい言葉遣いで話しているが、この話し方も全然慣れていない。
狭い所で自分の趣味をやってた方が好きだ。
「貴殿が、皇帝だな。我は鬼の王羅刹である」
「そうか自己紹介がまだであったな。我の名は袋雨、この地を統べる皇帝――――だった者だ」
ふと、外の光景を見やる。
外には地獄が写っている。
「こんな有様ではもう国とは言えない。この皇帝という肩書きも、ある
「……うむ、そうか。まぁ、我らとしてはある商人を探し出して叩き潰せばそれで構わん」
羅刹は皇帝の様子に少し戸惑っていた。
これでは皇帝というより、死刑を待ってる幼子ではないか。
あの商人の親玉が、まさかこんなに大人しい者だったとは思いも知らなかったのだ。
いや、もしかしたら戦意喪失しているだけかもしれない。
それでも、少しだけ哀れに思えてきたのだ。
「功績と言っていたが……聞いても良いか」
「……私は初めて、この世界で
魔法、それは【魔導帝国】の力の源。
手順さえ揃えれば、誰でも魔法を行使出来るその技術の原点はこの皇帝だったのだ。
歴史には残らない、ある小さく無垢な
しかし現実では魔法なんてものは存在しないと諦めていた。
だが、この自由度の高いVRゲームならばと、一人研究を続けていたら――――魔法が使えた。
その少女は嬉しくなって皆に魔法とその使い方を教えると、たちまち皆も魔法が使えるようになっていった。
そして、皆はその功績を讃え皇帝へとのし上がって
本来、その少女は皇帝には向いていなかったのだ。
狭い空間で魔法を探求していた方が、遥かに向いていた。
だが、それは自分の勝手、かつての少女は皆の想いの為に皇帝となる事を決意したのだった。
「だが、今はどうだ。勝利を確信したと思ったら更なる敵に襲撃され、なし崩し的に国の崩壊へと進んでいる。私はもう疲れたのだ。一人で魔法を探求出来れば、それでいいのだ」
「…………皇帝――――いや、袋雨よ。なら、我のもとに来ないか?」
「貴方のもとに……?」
「我は鬼の王だぞ。その気になればお前一人匿う事だって容易である。そこで魔法の探求をするといい」
その鬼の王の提案はかつてかけられたどの言葉よりも甘美な響きであった。
例えそれがnpcであったとしても、その提案は少女の心を溶かしていた。
自由に魔法を探求出来るという自由感と、もう人の上に立たなくても良いんだという開放感が少女を包む。
「…………はい。私で良ければ、是非貴方のもとへ」
これにて【魔導帝国】は消滅した。
この戦争後、元皇帝袋雨の姿は何処にも見当たらなく、一部の者には「国を捨てた」などの非難の声が上がったが、それでも少女はある王様によって皇帝の座から下りる事を
「えっと……一つ聞きたいのですが」
「……何だ?」
「その、今から行く【鬼ヶ島】は……暖かいですか?」
「暖かいか……少なくとも寒くはないな」
「そうですか、なら良かったです」
寒いのはもうコリゴリなので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます