第11話 宇宙くんは女の子?

 宇宙くんが転校して二か月近くが過ぎ、季節は初夏を迎えていた。

 彼の転入以来ドタバタが続き、気の休まる暇がなかった歴史部にも、Z会との対決に勝利し、学業の方も期末テストも無事終了して、平穏な日々がやって来た。


そんな時、クラスの宇宙くんとは仲の良い「勉強はさほどでもないけど明るくて騒がしい運動部系のグループ」が、宇宙くんを抜きにして彼のことを話題にしているのが耳に入ってきた。


 気になった私は、そのグループの一人で、宇宙くんの親友の木場淳史くんに聞いてみた。

「さっき、みんなで喜屋武くんの話をしていたみたいだけど、何かあったのかな」


「喜屋武の話って、そりゃ、姫乃、女子にははちょっと…」

 と口ごもる彼に、それでもしつこく質問を重ねると、「他の女子には言うなよ」と釘を刺した上で、しぶしぶ彼が重い口を開いた。


「姫乃は、チョコレート好きか」

「ん?、好きだよ、突然何よ?」

「裸の男の子の形をしたチョコと、女の子の形をしたチョコがあったら、お前はどっちを選ぶ?」

「え、もしかして、男の子の方がちょっとだけ余計に大きいから、男の子を選ぶって、そういう話?」

「そういう話だ。シャワーを浴びていた宇宙の股間を偶然見てしまった奴がいてさ、そこにはあるはずのものがなかったんだって」


 絶句する私に構わず、彼は話続けた。

「可能性その一、そいつの見間違い。俺はまあ多分そうだろうと踏んでいるんだけど、でも奴はそんなことない、確かになかったと主張している」

「可能性その二、実は喜屋武は女の子だった。確かに女装したら似合いそうな顔立ちではあるけど、胸や筋肉のつき方を見る限り無理がありそうだ」

「可能性その三、特別ちっちゃいとか、特異体質とか、病気か何かで切除したとか、他人には言いにくい事情がある。もしこれだったらと思うと軽はずみに本人には聞けない」


「じゃなかったら、それこそ改造人間とかヒューマノイドだったりしてな。あの超人的な能力からすればひょっとするかもな」

「…」

「え、何、突っ込んでよ。そんなことあるわけないじゃん。冗談だよ」


 やばい、これはやばいですよ。かくしてその日は落合恵を除いたメンバーで緊急で部活会議となった。議題はもちろん宇宙の男性器についてである。


「秋には修学旅行があるから、一緒にお風呂に入ることになるよ。どのみちこのままじゃまずいんじゃない」と弥生。


「上層部に許可を取って、今から男性器を生成する」と宇宙。


「え、そんなことできるの」と私


「僕に男性器がないのは、生成時のバグかさもなければ生成者の手抜き、許可は問題なく取れる思う」


「その、自分で作れるの。どうやって」と、女性陣は興味津々だ。


「僕には物質構成能力が備わっている。明確に形状をイメージできれば一晩で生成可能。クラスメート全員の男性器の形状は記憶しているので、その中のどれかを選んでイメージすればよい」


「えー、誰のにするの」と弥生。

「どうせなら一番大きいのにしなよ。ね、ね、誰が一番大きいの?」とアリッサ。


 男性器を記憶しているということは、我々女性のも記憶しているということ、こやつらはそれに気が付いていないのか。まあ、全裸で堂々歩いていたアリッサはそんなこと気にならないのだろうけど。


翌日、宇宙から報告があった。

「完成した」


「えー、見せて、見せて」とアリッサは早速彼のスラックスを降ろさせ、観察を始めたが、もちろん、私と弥生は乙女なので後ろを向いていた。


「そうか、宇宙くん、普通の男の子の身体になれたんだ」

 よかった、と、私は心からそう思った。


 ほどなく宇宙くんの別の話を耳にした。曰く「喜屋武はあそこに毛が生えていない」とのこと。どうやら彼は毛までは気が回らなかったようだ。


「そういえば、プールの着替えの時に見たけど、アリッサもつるつるだったよ。邪魔だから処理をしているんだって自分で言ってた」

 とある女子の発言に、二つの話が重なり、やがてクラスに「喜屋武とアリッサは付き合っていて、夜な夜なエッチの度にお互いにシモの毛を剃り合っている」という、まことしやかな噂が流れることとなった。

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