第9話 多摩川Z会vs歴史部
先手必勝と蔵王が次々とパンチを繰り出すも、宇宙くんが余裕でそれを躱していく。
蔵王は大振りで無駄な動きが多い。幼い頃から空手をやっている私の目から見て、実力差は歴然だ。
私はほっと胸をなでおろした。あれではパンチは当たらない。もっとも、当たったところで、ひき逃げされても平気な宇宙くんはどうってことないのだろうけど。
相手の息が切れて来たところで、宇宙くんの反撃が始まった。ジャブで相手をのけぞらせると、前蹴りが相手のみぞおちにめり込んだ。
「ぐっ」
相手も不良グループで総長と呼ばれるだけあって、彼の強烈な蹴りを倒れずに持ちこたえた。しかし動きが止まったこの瞬間を宇宙くんは見逃さなかった。すかさず繰り出された右の回し蹴り、足を鞭のようにしならせたハイキックが相手のこめかみにクリーンヒットした。
蔵王はたまらず仰向けに倒れ、数回痙攣すると白目をむいて全く動かなくなった。
信じられないものを見たという風情で、一瞬相手が静まり返った。
「ちくしょう、総長がやられた」
「弔い合戦だ、行くぜ!」
我に返った奴らは怒号を上げて、今、まさに一斉にこちらに向かってこようとしていた。
「危ない」と思った。いくら宇宙くんが強いからって、三十人を一人で相手はできないだろう。少なくない人数が私と弥生に襲い掛かってくることは避けられない。
それに、こんなに怒りをあらわにしている宇宙くんを見るのは初めてだ。私たちを庇おうと必死になった彼が、手加減が効かずに相手に大怪我をさせたり、死人が出してしまう可能性だってありそうだ。
「がっ」
その時だった。宇宙くんに向かっていた男ども数人が、顔を抑えてうずくまった。
弥生が小銭をミサイルのように発射したのだった。小さなコインでも、ここまでのスピードがあるとかなりのダメージを与えるみたいだ。
「姫乃、小銭、切らしちゃった。貸してくれる?」
「なるべく十円玉にしてね」
小銭入れを彼女に放ると、再び弥生がコインを発射し、前面の不良どもが顔を抑えてうずくまった。何が起こっているのか分からず、足止めを食った男たちがじりじりと後ろに下がる。
突然、壊れた旋盤だろうか、大きな機械が連中の頭の上をかすめ、その背後の壁に激突、すごい轟音と共に人がが通れるくらいの穴が開いた。すごい!弥生ったら、こんなものまで飛ばせるんだ!
弥生が引き起こす不可解な現象と、宇宙くんの圧倒的な戦闘力に裏打ちされた迫力に、まず河川敷で私たちにぶちのめされた不良高校生がその穴から逃げ出していった。
私は宇宙くんの前面に残る敵を回避してアリッサの元に駆け寄った。彼女をガードしていた紫とピンクの髪色をした女どもを容赦なく殴り倒し、彼女の縛めを解いた。
さぞかし恥辱的で恐ろしい思いをしただろうと思ったが、当のアリッサは、さしてビビった様子も見せずに、事態を観察していた。
乱闘はもはや大勢が決したようだ。ゆっくりと歩を進める宇宙「くんに、不良どもは、蜘蛛の子を散らすように、一人、また一人と壁の穴から逃げ去っていく。
それでも何とか踏みとどまっている十人くらいに、冷静に戻った宇宙くんが語りかけた。
「おい、お前らのボス、早く病院に連れていかなくていいのか」
連中が全く動かない総長の巨体を抱えて出ていくと、ようやく廃工場は無人になった。
アリッサは臆するところなく全裸のままで宇宙くんのところに歩み寄った。
「どうやら、あなたたちとは共闘が必要みたい」
宇宙くんも、動じることなく、返事をする。
「ああ、まずはアリッサのミッションについて、聞かせてくれるか」
「それじゃ、早速作戦会議といきましょうか」
私たち四人は、落ち着いて話ができる場所ということで、宇宙くんの住むマンションへ移動した。
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