第14話「ソフィア=ヘルシャフト」

「ソフィア=ヘルシャフト。とある魔女の名前よ。ソフィアは魔術全盛期……今から400年くらい前ね。当時天才と言われていた魔導師だった。」

暗い鉄格子の外から巫香織は語り出す。

「そして彼女の魔術が記された書物。それが、『ソフィアの手記』。」

どこからか、香織は1冊の本を取りだしていた。

「これはそのコピーね。」

現物は厳重に管理されているのだろう。たとえそのコピーであるにも関わらず、彼女の手に持つ本は分厚いカバーで覆われ、錠が掛けられている。

「この書物によれば、彼女は相当魔術の研究に必死だったみたいね。基礎的なものから大掛かりな儀式まで事細かに書かれている。」

彼女はツラツラと語り出す。

「あぁ、なんて美しいのかしら。貴女もそう思うでしょう?ゆらぎさん?」

「………そうですか」

1人昂る彼女に、ゆらぎは困惑していた。美しいと言われても何も見ていないし、香織の言っていることもソフィアとかいう人についても検討もつかない。答えようがない。

「そうね、例えば……『●●●』」

よく聞き取れなかったが、彼女がボソボソと呪文を呟いた直後。

ジャッと音がして、目の前の床に穴が空いた。

「魔力を水のように練って高圧で射出する術。少し驚かせちゃったかしら?」

ほとんど見えなかった。薄暗いあかりに照らされて一瞬白っぽい線が見えたような気はしたが、彼女に言われるまでそれがなんなのかよく分からなかった。

「これでも序の口よ。彼女の残した術式は数多にある。現代魔術の基礎を築いたと言っても過言ではないでしょう。」

「……………」

ゆらぎはただ無言で、床に空いた穴を見つめている。

「………ふふ。少し興味が湧いてきたみたいね。もう少しだけ話してあげるわ。」




「ソフィアの住んでいた町は、一夜にして突然消えたとされている。」

「え、1日でですか?そんなことが?」

突然の魔女の喪失に金剛は疑問の色を浮かべる。過去の人物の経歴がよく分からない終わり方をしているのは歴史上無い訳ではない。彼女がいたのは魔女狩りの時代。いつ死んでもおかしくは無いのだろうが、それにしてもバッサリと切られすぎている。

「そもそも資料が少ないのもあるが、突然資料が途切れている。彼女の出生と死亡については一切の記録が無い。」

「そりゃ、そんなことは昔の人だとあるんでしょうけど、だからって1日で消えたって話になりますか?流石にありえないんじゃ……」

当然の指摘だ。いくらなんでも暴論が過ぎている。

「あぁ、彼女の記録は残ってない。母国にはな。ただ、この日本で少しばかりの表記が見つかってる。『ソフィアのいた町は一晩のうちに焼けて崩れ落ちた』とな。」

「日本で?なんで突然日本なんですかぁ?流石になにかの勘違いにしか思いませんけどねぇ」

「さぁな。調査は続いてるが、理由は何も分かってない。歴史とはそんなものだ。」

「そんなもんですかねぇ。」

まぁその辺については掘り下げても無駄なのだろう。火ノ宮もそれ以上の質問も無く引き下がることにした。

「とまぁ、ソフィアについてはこんなところだ。問題は、そのソフィアの手記を教会が握っているところだな。」

「……その手記に書かれている魔術っていうのは、そんなに危ない内容なんですか?」

「そうだな……5年前の事故を覚えているか?」

「5年前?なにがありましたっけ?」

紫苑は頭を悩ませポカンとしている。他の面々も同じように言葉に詰まっている様子だ。

「確か……この辺の工場だかで爆発事故が〜みたいな話が少しニュースになってなかったか?」

頭を捻った結果どうにか金剛が思い出したようだ。

「あれは、教会の行った儀式による事故だ。」

その言葉と同時に、天欠の表情は翳りを増した。

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