第13話「魔術研究部⑤」

「集まったな。」

「先生、曙が攫われたっていうのはマジなんですか?」

魔術研究部の面々と日栄は学校前に集まり、金剛が天欠に問いかける。

「まず間違いないだろう。昨日から家には帰っておらず、教会の方も騒がしいと聞く。こんなタイミングで家出も無いだろう。」

「そんな………どうすれば……私ちゃんがもっと気を付けてれば……」

火ノ宮の顔がサーッと青ざめていく。

「お前達のせいじゃない。俺の責任だ。ここは俺達大人が動く。死んでも助ける。

……だが万が一、曙を逃がした後俺達が間に合わないようなら、ひとまずこの学園まで逃げられるようサポートしてやってくれ。」

「もちろんです。師匠。……………って言いたいところですけど、僕も師匠達に着いていきます。」

「来るな。ガキは引っ込んでろ。」

天欠がいつもに増して凄んだ顔で巫を睨む。

「それでも行かせてください、師匠。さっき母さんから家に帰るよう電話がありました。何かろくでもないことを企んでいるのは間違いないんです。それに僕がいれば少しは穏便に済むかもしれない。元々僕の家だし、案内もできます。」

「………」

「嫌な予感がします。行かないときっと後悔する。絶対足手まといにはなりません。」

巫は芯の通った目で天欠を見る。彼なりの後悔もあるのだろうが、それ以上に確信めいた焦りを感じる。絶対に引かない。そういう顔だ。

「ちょっと!それなら私も行きますよ!ゆらぎ先輩が酷い目にあってるなら私も助けに行きたいです!」

「お前はもっとダメだ。そもそも弱すぎる。遊びじゃない。」

天欠は溜息をつきながら紫苑の申し出を突っぱねる。

「でも!」

「黙れ!勢いでどうにかなることじゃないんだよ!」

声を荒らげ、天欠は紫苑に指先を向ける。少しでも動けば魔術で紫苑を吹き飛ばせる。そういう脅しだ。

「…………あ……」

大きな声に驚いたのか、気迫に気圧されたのか、紫苑は震えて押し黙った。

「先輩、そこまでです。」

気が付けば、日栄は天欠の首筋に剣先を向けていた。少しでもその手を動かせばむしろその首が落ちる。今の日栄には殺意があった。

「…………すまん、言い過ぎた。行くぞ日栄。」

天欠は手を下ろし、2人は振り返って歩き始める。

「師匠!」

「………」

天欠は何も答えない。

「………『ソフィアの手記』。母さんはそう言ってました。」

「………!」

その一言で、ピタリと天欠の足が止まる。

「師匠。これは『権能』クラスの話ですよね。少しでも戦力は多い方がいいんじゃないですか?」

その言葉につられ、天欠と日栄は険しい顔で振り返る。

「権能?ソフィア?何の話だ?」

「……そんな話は今まで聞いてないですねぇ。」

金剛と火ノ宮の2人は怪訝な顔で巫を見やる。

「………まさかセンパイ、まさか皆さんに何も話してないんですか?」

「………知る必要のない事だ。」

「ここまで来て流石にそれは無いでしょう。彼らには知る権利があるはずだ。巫君かセンパイかどっちが始めたかは知りませんが、これだけ巻き込んでおいて無言を貫き通すのは無しですよ。」

言葉は穏やかだが、日栄の口調には少なからず怒りが含まれている。

「センパイはいつもそうだ!誰にも何も話さずに勝手な真似ばっかりして!あんたがもっと話してくれてたら!姉さんだって巻き込まれなかったはずだ!」

「……あ、あの、叔父さん………」

先程の動悸が収まらないのか、胸元を抑え泣きそうな目で紫苑は日栄に手を伸ばす。

「………ごめんね。紫苑ちゃん。こんなところを見せてしまって。でも、君にも知る権利はあるんだ。いや、知っておかないといけない。君のお母さんにも関係しているのだから。」

「……………………………………え?それは……」

「はぁ…………分かったいいだろう。手短にだが話す必要がありそうだ。ソフィアと曙。5年前について。」

長い溜息をつき、天欠はその重い口を開いた。

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