このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（290文字）

実のところ、今は二度目の読後である。
一度目に「レモンが絞られたような読後感」などと思っていた自分を問い詰めたくなるくらい、幾度も心を揺り動かされ、頁を進める手を止めないことに必死だった。
「剪断」をむかえた瞬間、あるいは直後、「僕」にはどんな景色が見えていただろう。そのことに思いを募らせていくうち、また胸を張って言いたくなる。

「泥のような出来事の数々に対して、すがしがしさとも呼びたいさわやかな風が吹きわたるような　レモンが搾られたような　そういう読後感のある、楽しい小説でした」と。

あまりにも繊細で、あまりにも濃い物語でした。
ありふれた二番煎じの物語とは程遠い、これこそ一次創作だと思える作品です。
「実体験」がなければ書けない、生々しくて鮮明な描写の数々がこの物語を唯一無二にしているのだと、そう言っても過言ではないと感じました。そういう意味で私には書こうとも思えないし、樅木霊さんにしか書けないです。
処女作は確かにその人をよく表すと言いますが、この濃さはそれだけでは無いと思います。人生の体験を表すための語彙力、表現力、知識があってこそ成立する物でした。

きっと私にはこの物語を半分も読み取れていないです。余程たくさんの本を読み、深く思考できる人でないと、これを完璧に読み取るのは難しいのではと思うほど。

少し興奮気味なので文章にまとまりがないですが、とにかくこれを書き切る樅木霊さんは本当にすごいです。是非一度は読んでみて欲しいものです。

樅木霊（Dec25Oct31）さんの経験や心情が、この物語を通して伝わってくるように思えました。

描写が詳細ではない「いじめ」についても、下駄箱を使わないことや、担任の先生への意地悪な描写の仕方など……遠くにある結果をひっそりと見せられることで、その流れを私たちは想像してしまいます。この自分から発見した悲しみが深く心に沈み込んでいきました。

中学一年生の主人公に、私たちまで騙されてしまうと、もう救いの手は差し伸べられないのでしょうね。