マイナー誌だが連載を持つ漫画家の雑用を
請負う青年。まだ少年と言っても決して
おかしくはない彼は、正式な雇用とは到底
言えない現在の 在り方 に、何ら不満は
抱いて来なかった。
只、何かを心の底に引っ掛けたまま
淡々と生きている。
母親と弟との生活。時々、記憶の底から
湧き出て来る父親との会話。
偶然、所用で訪れたアトリエで彼は
一人の不思議な女性から声を掛けられる。
折しも 川に架かる橋 の写実的な
風景画の前で。怒りに満ちた目を絵画の
橋へと向けた彼女は、独白の様に呟く。
「この橋は、どこにもないんです」
この作者の圧倒的な物語りは、細部に
至るまで緻密で重たく、時には軽やかに。
人々の生き様を描いては交差させて
何処か遠い所へと運んで行く。
恰も、曇天の下に流れる鈍色の
川の長流の様に。
川に架かる橋の夢を、そしてその橋を
渡る事を過剰に恐れる 彼女 に
いつしか好奇心と、それ以上のモノを
持ち始める主人公の苦悩と小さな希望は
周囲の人々や過去の出来事に触れては
掴む間もなく流されてしまう。
天より降った一粒の雨は。
次第に雨脚を強めて川の奔流と成る。
それは、みるみるうちに流れては何処か
全く見知らぬ場所へと。
流されて行くのか、それとも。
橋など、最初からなかったのだ。