第2話

野間良二と出会ったのは、集団自殺のオフ会でだった。暗い森の中、山小屋に集まる虚ろな顔の面々。その中に僕らはいた。

 端的に言うと、僕と良二はその場から逃げ出した。死ぬことが怖くなった。そういう、ありふれた理由だった。実際僕は、逃げ出す直前までは本気で死のうと思っていた。けれど、隣に座っていた良二が小さな声で、かすかな声で──死にたくない。と漏らしたのを聞いて、それに呼応するかのように、僕は生きたくなってしまった。

 僕は叫びながら扉をぶち破った。良二の手を握って、思い切り走った。遠くで罵声が聞こえた。けれど、そんなものはどうでもよかった。煙を吸ってしまって混濁している意識の中で、生きたいという気持ちだけが足を動かしていた。

 そのあとのことはよく覚えている。山のふもとまで下りてきて、パトロールをしていた警官に見つかり補導された。

 翌朝、警官と一緒に山小屋まで向かった。先に入った警官が、地べたを這いずりながら、素っ頓狂な声を上げて出てきたのを見て、僕は惨状を察した。後で聞いた話。山小屋では、僕ら以外にいた自殺志願者全員が、それぞれだらりとモビールになっていたそうだ。

 僕は「皆、真剣に死んだのだな」と思った。僕は、死ぬことからすらも逃げてしまったのに。

 ふと横を見ると良二が手を合わせていた。自分より小さい体と合わせた手がぶるぶると震えている。僕も、同じように手を合わせた。目をつむって会釈する。どうであれ、真剣さをもった彼らのその後がせめて何か救いであればと、他人事のように祈った。

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