第28話 姉の友人を助ける
フリーズ・ファンタジーにおいて、主人公ジュリアンはどんな青年かと問われれば、大抵の人は上手く答えられない。
なぜなら、原作においてはほとんどの場合、自らの意思で喋ることがなかったからだ。
プレイヤーが任意で選んだ選択肢により、話す言葉が決定するようになっている。だから、いわば主人公の分身に近い。
しかし、全く喋れないというわけではない。だからある程度の性格は予想していたのだが。
結婚式場で、彼は僕の近くの丸テーブルに座っていた。
そのため声が時折聞こえてくるのだが、前世で想像していた性格とは全然違う気がした。
出てくるのは貴族同士のパーティー、山や海に遊びに行ったこと、闘技大会で勝利した話などなど。
思っていたよりお喋りで、かつ話のほとんどは自身がいかに優秀であるかを説明したい、という欲が漏れ出ているようだった。
取り巻きのような連中が、彼が話す度に驚き讃えてくれる。
ジュリアンは侯爵家のため、貴族達の中でも上位に位置していた。だからご機嫌を取ってもらえるのだろう。
なんだか残念な気持ちになってくるが、僕には別に関係はない。
これから来るはずの、壮絶な戦いの日々を思えば、むしろ大変だなぁと同情したくなるくらいだ。
だからその後は、登場した新郎新婦の姿に夢中になっていた。
リディア姉上のウエディングドレス姿を、どう表現したらいいものだろう。
僕には良い例えが浮かばないが、とにかく美しく慈愛に満ちた姿であったことは間違いない。
新郎もまた、凛々しく優しそうな雰囲気が出ていて、二人はお似合いのような気がした。
式が進むほどに、嬉しくも切ない気持ちに包まれていく。
このまま順調に終われば良かったのだけれど、実はこの後に嫌な騒ぎがあった。
二次会が始まり、誰もが気さくな交流を楽しむ時間へと変わっていた時のこと。
僕は目立たないよう、壁の近くでぼうっとしていた。
広間は少し小さい部屋へと変わったが、それでも貴族の催しというのは規模が大きい。
体育館のような場所で続く飲み会で、ジュリアンが不満げに取り巻きに八つ当たりしていた。
実はレスティーナと正教会の面々が早々に引き上げてしまったのだが、それが不満だったらしい。
すると彼は、続いて周囲を我がもの顔で練り歩くと、一人の女性に声をかける。その人は姉上の友人で、名をパメラといった。
「やあ。君は新郎新婦のご友人、といったところかな」
「え、あ……はい。リディアの友達です」
「へえ、俺はジュリアンって言うんだ。知ってるだろ?」
「は……はい」
「なんだか一人で寂しそうだね、良かったらこっちで話さない?」
どうやらジュリアンは、彼女を会場から離れた場所に連れて行きたいらしい。それにしても分かりやすいナンパである。
しかし、姉の友人は元々おとなしい性格で、こういったナンパを好きではないことは傍目からでもよく分かった。
ただ、相手は聖剣を手にした侯爵家次期当主。元々大人しそうな性格も手伝い、断れずにオロオロしている。
乗り気の相手だったら、好きにすればいいと思う。ただ、強引に連れ出そうという気が見え見えなので、正直よろしくない気がする。
しかも姉の友人である。今の間は新郎新婦がいないし、助けられるとしたら僕くらいしかいないようだ。
ジュリアンの奴、あんなに嫌がっているのに腰に手まで回し始めた。
取り巻き連中が囲んでいるので、周囲の有力な貴族連中にはよく見えない。多分わざとだろう。
これは流石にまずい。僕は気配を消しつつ取り巻きの壁をすり抜け、笑顔で声をかけた。
「おや、パメラ様ではないですか」
「あ……キース君」
「ん? 知り合い?」
ジュリアンは口調こそ乱暴ではないが、顔にはうざったいという気持ちが隠せていない。僕は彼にも笑いかけた。
「ああ! あなたは聖剣を引き抜いた、あのジュリアン様! お会いできて光栄です。僕は彼女の友人で、リディア姉さんの弟のキースです。以後お見知り置きを」
「……あ、あー! なるほどな。こちらこそよろしく」
新婦の名前を出せば、この場で邪険に扱うことは難しい。
「すまんが、今ちょっと忙しくてね。パメラ——」
「……というのは、まさか魔物の件ですか?」
急に真剣な表情になり、顔を前に出してみる。ジュリアンは露骨に嫌がったが、パメラは「え?」と興味を示した。
「魔物って……」
「最近大陸のあちこちで……街中にも魔物が現れるようになっていることは、すでにご存知のことでしょう。しかし王国が——いや、邪悪を払う者が黙って見ているはずがない。そう信じて正解でしたよ。これから一斉に間引きが行われる予定ですか?」
おだてつつ、彼に返答を求める。実のところ、原作のストーリー開始前は謎が多い期間だったので、純粋に知りたいという気持ちもあった。
「ま、まあな。俺も早く奴らをどうにかしなきゃ、そう思っていたぜ。今は絶賛、作戦を検討中なんだ。まだ決まってないから、ここでは話せない」
「なるほど。既に動かれている、それだけで僕は安心できました。流石は史上三人目の聖剣の使い手ですね」
「え? 三人目……そうだったのですか」
ここでまた姉上の友人が驚く。聖剣の逸話は男子はよく知っているものだが、女子は疎いのが常だった。徐々に僕の得意分野に話が転がってきた。
「ええ。本当に大変なことなんですよ。何しろ聖剣の歴史というものは——」
それからはひたすら世界の歴史を語り続けた。ジュリアンは明らかに苛立っていたが、時折自身を持ち上げた話をされるので、話に割り込むことができずにいる。
この苛立ちを、恐らくパメラは敏感に察知しているだろう。大体の場合、男より女のほうが心の機微に敏感だ。
しかし表面上は持ち上げているから、ジュリアンとしては上手くいっていると思っている。彼の表情の変化を見ていると、非常に分かりやすい。
実際はナンパを失敗させようとしているだけだ。
僕はここで軍事的な話題にも話を広げてみた。歴史上で起こった大戦について、未来の英雄に見解を問うつもりだった。
しかしここで、意外なことが起こる。
彼の取り巻きの一人である男が、余興のため用意していたいくつかの遊び道具を持ってきたのだ。
「お話中すみません。さっき戦のことをお話ししていたみたいですけど、相当キース様は戦略、戦術知識に自信があるようですね。では、一つバトル・ボードでもやってみませんか」
この提案に、周囲がどよめく。
「いいねえ! やっちゃおうぜ」
「それだけ語るなら、もちろんバトル・ボードもできるんだよな?」
「私もやってみたい」
「きゃあ! 面白そう」
みんなお酒が入って、奇妙なノリになってきてる。
バトル・ボードとは、前世の地球でいう将棋やチェスのようなゲームである。フリーズ・ファンタジーではミニゲームとして登場し、簡単で奥深い駒取り合戦として好評だった。
「はは! そうだな。よしキース! 俺と一度勝負してみないか」
そして、原作の主人公に勝負を挑まれてしまう。
まずいことになったなと、僕は苦笑した。
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