第27話 結婚式で再会
しかし、結婚式の準備といっても僕は何もすることがない。
当日の衣装はすでに準備してあるし、後はただ参加するだけだった。
結婚式の日まではあと数日あり、それまでは魔力瞑想だったり、外に出て原作の小さなミッションに関連することを解決したり、遺跡を巡ったりいろいろしていた。
あと二ヶ月少しで学園に入る予定なので、そっちの準備もする必要がある。
原作では学園自体は普通のところだったし、ちゃんとした勉強も多少はこなさなくてはならない。
ただ、最近はこの普段どおりなはずの日常に、一つだけ異なる色が加わっている。あの未来の悪役令嬢だ。
少し前にお返事の手紙を出して、ようやく落ち着いたと思われたところで、彼女からまたしても手紙が来た。
しかもその内容ときたら、けっこう驚くべきものだった。今は頭を抱えて読んでいるところだ。
=====
拝啓
親愛なるキース・ツー・イグナシオ様
お返事をいただけて、とっても嬉しい!
あなたに聞いてほしいことがあって、またお手紙を書いてます。
実は昨日、お父様にキースとのことをお話ししたの。
でもなぜかは分からないけれど、とっても怒られてしまって。キースとはもう会わせるつもりはない、なんてことを仰ったの。
私は全然納得できなかった。だから初めて、お父様に反抗してしまった。
そうしたらものすっごく怒られて、今ちょっと落ち込んでます※泣いている絵※
でも私、どうしてもこのままお別れにはしたくない。キースもそう思ってくれてるかな?
実は、これまで隠していたことがあります。
私はあなた以外にも、他の男の人とお見合いをしているんです。
でも、なんだかみんな……正直にいうと怖くて。目の奥に火があるみたいに見えるの。
今まで隠しててごめんなさい。他のお見合いの人は、全部断るつもりです。
それと、またお会いする時のために、今はいろいろ準備をしているの。
キースはこの前私達に、イグナシオの伝統料理を振る舞ってくれたよね。
私達の家にも伝統の料理があって、次にお会いするときはご馳走させてください。
でもちょっと心配。キースはお肉は好き? ローゼシアの料理はお肉が多いから、もしかしたらお口に合わないかも。
遠慮しないで何でも言ってね!
それから、本当は一番聞きたいことは他にあるの。でも、どうして会った時に直接聞きたいから、手紙ではまだ秘密ね※笑顔の絵※
キースも私に会いたいと思ってくれてるかな?
お返事待ってます。
敬具
997年不死鳥の月29日
イグナシオ家五男、キース様
アリス・フォン・ローゼシア
=====
「こ……これは……」
僕は邸の庭でポツリと独り言を漏らした。思わず言葉が出てしまうほど、衝撃的な内容だ。
まず彼女が、僕とのことで父親と喧嘩になったという。そしてあのライオンみたいな父親は、もう僕と会わせるつもりはないと怒鳴ったらしい。
それはしょうがないことだと思う。正直に言えば確かに彼女にはドキドキすることがあるが、奥底にある黒い炎に焼かれる可能性に身慄いだってしてる。
あのフランソワ公爵に反抗してしまったという内容に至っては、正直信じられない。
貴族の娘として、あってはならないことを彼女は始めている。このままでいくと、もしかしたら僕が原因で悪役令嬢が爆誕する可能性だってある。勘弁してくれ。
さらにアリスは、他の貴族と見合いをしていること、それらを全部断るつもりだと書いている。
ちょっと待ってくれ。それもまずいだろ。少しばかり暴走しちゃってるんじゃないか。
そういえば原作では、彼女は未婚だったような気がする。通常学園に通う身であっても、貴族の場合婚約を済ませている場合が多い。
でも、アリスに至ってはそんな話がない。真偽は不明だが、まさか原作でキースとくっついていたわけではあるまい。
婚約をすることで制約を受けることを嫌がってて、わざと僕と結婚するフリをして時間を稼いでるとか?
それも何か合理的じゃない気がする。分からない、彼女の思考が謎に満ち過ぎている。
最後に、一番聞きたいことというのはなんだろう。心当たりがない。
とにかく、すぐに自室に向かい手紙の返事を書くことにした。
◇
それから更に数日が経った。
結論から言うと、アリスと僕の文通は続いている。ちょうど今朝も返事の手紙が届いたところだ。
おかしい。完全に熱量が上がっている気がする。最近は手紙を読むだけで、もしかして本当に僕のことを好きになったのでは? と思い胸が高鳴る時がある。
ただ同時に、いくつか文章におかしなところがあり、その違和感で心の中で警鐘が鳴り響くことも多い。
つまり僕は今、彼女に揺さぶられている。そのことをこっそりとリディア姉上に相談したら、「もう惚気てるのね」なんて解釈違いの返答がきた。
しかし、今日の手紙についてはまだ読むことはできない。これから馬車に乗り込み、ヴァトラス領へと向かう必要がある。
実は今日は、姉上の結婚式なのだ。
既に学園を卒業して大人になっている二人だから、結婚式までの日取りはとても短い。
前世では婚約してから結婚式を挙げるまでは、けっこうな日数が掛かるものだけど、フリーズ・ファンタジーの世界は早いようだ。
今回の結婚式には、両親に加えて兄達も参加している。彼らはもちろん、姉のめでたい門出を祝いたいと言うわけではない。
この華やかな社交の場となった式場で、新しい商売相手や、身分の高い貴族と繋がることを狙っているのだ。
社会とはそういう面が大きい。別に僕はそれを否定したいわけじゃない。ただ、うちの家族はほとんどが、あまりに露骨過ぎる。
僕は結婚式の広間で、ヴァトラス家の後継ぎとリディア姉上が入場してくるのを待っていた。
丸テーブルに一人でのんびりとしている。ようやく気分が落ち着いた……と思った頃、周囲が大きくざわめく。
新郎新婦の入場かな。そう思って振り向いてみたら、まるで主役を喰ってしまうのではと思うほど派手な衣装に身を包んだ男がやってきた。
誰もが彼を目にするなり、羨望の眼差しを向ける。黒いジャケットには宝石が散りばめられ、必要以上にオーラを周囲に振り撒いている。
「やあやあ。みんな、遅くなってごめんよ。だいぶ待たせてしまったなぁ。だって最近忙しくてさ。危うく寝過ごしてしまうところだったよ」
僕は以前、彼には一度会っていた。フリーズ・ファンタジーにおける主人公、ジュリアンだ。
どうして彼がここに?
不思議に思っていると、すぐ後ろから聖女レスティーナが入ってくる。グルガン正教会に関連していると思わしき、年配の司祭達も後ろに続いていた。
そうか。ヴァトラス家はグルガン正教会と、太い繋がりがあるのか。確かに父上は、多くの土地とツテを持った名家だ、なんて言ってたな。
目にするのは一度きりだと思っていたが、まさか結婚式の場で再会するなんて。
普通なら興奮するところだが、なぜか僕は嫌な予感がするのだった。
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