第24話 アリス視点:好き
昨日のことは、私の記憶に根を張り、心に新しい花を咲かせてくれたような気がしてなりません。
キースとの二度目のお見合いがあり、私アリス・フォン・ローゼシアはイグナシオ領にお邪魔いたしました。
キースは以前にも増して凛々しくて、春の風のように爽やかながら、どこか暖かい……そんな人のように感じました。
彼のお姉様ともお会いできたのですけれど、とても素敵で活発な方で、一緒にいるだけで元気になれそうな気がしてきます。
イグナシオ家の方々に親切にしていただいたことに、今とても感謝をしています。
ただ普通にお話をするだけでも楽しかったのですけれど、昨日は特に印象に残った出来事ばかりでした。
まずは湖を二人で周ったこと。イグナシオ領にはこんなにも美しい景色が広がっていることに、私は驚きと感動で胸がいっぱいでした。
でもそれだけでは終わりません。キースは舟を用意してくれて、湖の上を進む光景を堪能させてくれたのです。
まさか船に乗れるなんて。私は興奮を隠せませんでした。美しい水面を間近で目に入れるたび、幻想的な空気を感じたのです。
それと、はしたない話になってしまうのですが、キースをより近くに感じられたということが、本当は一番胸が高鳴る出来事でした。
彼はどこか楽観的で、軽やかに冗談が言える方です。でも強い芯があります。
彼が魔法のことを語る時、遺跡のことを語る時、その瞳にある光に憧れを抱いていきました。
彼と一緒にいたい、そんな風に思いが膨らんだ頃、私はあるものを見つけました。
それは、遺跡の地下へと続く階段です。これまであの人が教えてくれた様々な秘密が眠る、魅惑の世界。強い好奇心に突き動かされ、はしたない提案をしたことを覚えています。
実はあの人に、一緒に遺跡に潜りたいというお願いをしてみました。それは貴族の……公爵家の娘としてはあまりにも恥ずかしいこと。
でもあの時、どうしても衝動を抑えることができませんでした。
それと……本当は正直に言えなかったことがあります。恥ずかしい下心のようなものです。
あの時私は、本当は遺跡よりも、彼のことをもっと知りたかったのです。なのですけれど、とうとうそれは最後までお伝えすることができませんでした。
遺跡で冒険をすることになり、胸が高鳴って心も体も震えます。でも、不思議とキースといると安心できるのです。
魔物から守ってくださった時、なんて頼もしい人なんだろう、と尊敬の気持ちが溢れてきて、同時に不思議な感覚に囚われたのです。
この胸のドキドキは、きっと怖い気持ちだけじゃない。私はあの人に、どうしてももっと近づきたい。
もっと触れてほしい。それと……この気持ちを伝えたい。
でも私はやはり臆病でした。遺跡のことも、魔法のことも好きになりましたが、本当はもっともっと好きなのは、案内してくれているあの人だったのに。
どうしても、はっきりと好意をお伝えすることができません。自身の臆病さを、改めて自覚しました。
それでも、手紙なら気持ちを伝えられるかもしれない。
私はまた、キースへの手紙をしたためています。でも、なんだかまた失敗ばかりで、もう五回も手紙を書き直しているのです。
あまりに露骨に書いてしまったり、遠回し過ぎて意味の分からない文章になってしまったり。とても難しいのです。
はっきりと「好きです」と書いてしまった時は、机の上でバタバタとしてしまいました。
何より、キースが手紙を読んだ後、どう思うのだろうかと想像が止まりません。
もし嫌われてしまったらどうしよう。不安と緊張と、期待が入り混じってしまい、いつものように筆が進みません。
でも、この手紙は必ず書き上げて、すぐにポストに入れるつもりです。どうしてももう一度、あの人とお会いしたい。
昨日、なぜかお父様はお怒りになってしまったけれど、誠意を込めてお願いすれば三度目の機会を与えてくれると思っています。
その時こそ、私は……この高まった気持ちを余すところなく、告白したいのです。
でも、もしお断りされてしまったら。もし伝え方が下手で、誤解をされてしまったら。そんなことばかりが頭に浮かんで、昨日の夜はずっと眠れずにいました。
それともう一つ、とても気掛かりなことがあります。
大切な家族に、今危機が迫っているのです。私だけが幸せになって良いはずがありません。
家族への心配と……キースへの想いで心は嵐の船みたいに揺れています。
今ある未熟な心では、公爵家の娘としての責務を果たせないでしょう。もっと成長しなくてはなりません。
何事にも動じるなかれ、と兄や姉に厳しく教えられたことが幾度あったことでしょう。
ああ、でも!
心は今、あまりにも強く揺れ動いています。この手紙を書き終えたら、ある場所に向かうつもりです。
幸せと悲しみが交互に押し寄せるこの身には、とにかく行動を起こす以外に答えを見出せないのです。
外が騒がしくなってきました。あの場所へと向かう馬車が到着したのでしょう。
お父様には内緒で、私はその馬車に乗ります。
信じられないくらい熱った心を、馬車の窓から吹く風が冷やしてくれるでしょう。
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