極道一家は騒がしい

鳴誠

ロックの氷は溶けやすい

骨を折る音が聞こえる。

痛みに耐える嗚咽が聞こえる。

びちゃびちゃと何かが液体として落ちる音がする。


「チッ。手間ァ取らせやがってよォ」


スーツの裏ポケットから赤い箱とライターを取り出す男。

箱から煙草を取り出し、火をつけて吸う。


「クソまずい。これだから・・・。」


ふぅ。と薄い煙を吐きつつ頬に着いた液体を拭う。


「コレ片付けてさっさとブツ回収してこい!」


足元に転がるボロボロの人間を蹴りながら周りの部下に命令を下す。


部下達は人間を回収する数人と回収しなければならないものを探す部隊に分かれ、日本家屋の中を探し始めた。


「若頭!ブツ発見しましたー!」


数分の後、部下のひとりがそう叫ぶ。

それにはぁ・・・と溜息をつきながら部下に戻るよう伝える。


「とりあえず見つけたようだし、ずらかるぞ」


「「「わかりました!」」」


丸刈りの部下が運転する大きめの車の後部座席に乗り込んだスーツの男は手で出せと合図する。


「しっかし兄貴、例のブツってなんなんです?」


運転席から部下がそう語り掛ける。


「あ?そうだなあ・・・俺の相棒だったやつだな」


「なるほど。そりゃ取りに行きますわなぁ」


部下から受け取ったブツと呼ばれるそれ。

それはマグナム銃だった。

長めのバレルに黒の塗装、銃弾が銀に美しく輝く。


「トリプルロック・・・。」


S&W社の44口径だ。

ほぼ過去の遺物とまで言われる古い銃だ。


「兄貴はマグナムが欲しかったんですかい?」


「いや、これが欲しかったんだ」


ひとしきりそれを眺めたあと、そっとケースに戻す。

ケースの留め具をつけたところで目的地に着いたようだ。


「着きましたで、兄貴」


「わかった。お前らも、もう上がっていいぞ。」


それだけ言うと彼は車から降り、大きめの和風建築の家の門をくぐる。

日本庭園を右に進み、チャイムを鳴らす。

使用人らしき男が扉を開け、入るように促す。


「永旋さんに。報告に。」


「こちらへ。」


案内された部屋の襖を開ける。

そこにいたのはピアスを両耳に開け、頭の後ろで髪を結っている白髪の男性。


「まぁ座りなよ」


そう促されて彼は座る。


「欲しいものは手に入った?鐘留かねどまりベル?」


スーツの彼、彼は鐘留ベル。

三津結みつゆい組の若頭にして実行部隊最強の男。

そして彼の目の前に居るのは三津結組ナンバー2の男。


「それはもう上々ですよ。永旋えいせん廻理かいりさん。」


永旋廻理。基本部下に姿を見せない組の頭の代わりに組員をまとめる実力派。


「別に呼び捨てでいいって言ってるでしょ?」


「流石に部下に示しがつきませんよ。」


他愛もない会話が終わり、全ての報告が終わりベルが立ち上がった時だった。


「あぁ、もうすぐ抗争が始まりそうなんだ。」


「またですか?次は何処とやるんです?」


髪をくしゃくしゃと掻きながら聞く。

廻理は少しうんざりな顔つきで答える。


狐牙こっか組だよ。」


「この前傘下潰したばっかりじゃないですか・・・」


面倒くさそうな表情のベル。

処理に追われる日から目を背けたいらしい。


「全部潰して丸ごと貰おうか。もう。」


「もう早く終わるならそれでいいです。」


ベルは溜息と共に襖を開ける。

襖を閉める時、奥から声が聞こえた。


「姐御はちゃんと見てるから大丈夫だよ。」


「それだといいですね」


数センチの間で交わされた会話を最後に襖をぱたんと閉める。

そしてベルは自分の部屋に帰っていく。


その背中は新しい仕事で辛すぎる社会人のそれだった。


「さっさと平和な土地になんないかな・・・」


そのボヤキは暗闇に消えた。

微量の光に輝く世界も。

暗闇になるにつれ消えていく。

戦いの日は近い。










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